名人・藤井聡太3連覇、記者が見た舞台裏「永瀬（拓矢）さんキレキレですね」「逆転だ」感想戦終了は0時35分…翌朝「大変なシリーズだった」 

　この3三金型から銀冠にする作戦は、本局の副立会人を務めた斎藤明日斗六段が得意にしており、彼が源流だという話を最近、耳にした。永瀬は斎藤と研究会をしているのでその影響はあるのかもしれない。

　敗れた第2局で用いた作戦を再度使うのは、改良策があるからだ。それが46手目に6三の銀を5二に引いた手で、後に5三銀－6三金型を作ったのが後手の主張だ。

「この将棋は手が広いんです。△6二玉辺りまで進めば不満はないかな、と。先手陣との相性として、5三銀－6三金に組み上がればいい形なので」

「馬を作ったのはデカい」永瀬優勢だったが

ADVERTISEMENT

　藤井は角を4六に手放したことを後悔しており、それに対して後手は金駒を3段目に配置して好形の構えだ。非勢を自認していた藤井は千日手を狙うが、永瀬はそれを許さない。4筋に続いて5筋の位も奪い、さらには馬も作って後手絶好調だ。

「確かに馬を作ったのはデカいです。感想戦で藤井さんは全然自信がないという様子でしたね。私も局面はいいとは思っていましたけど、大優勢まではいかない。それに時間がなかったです。形勢がよくなったと思ったところで、残り10分くらいだったので」

　永瀬は正着を続けていた。

　周囲の記者たちはスマホやABEMAを見ながら、「永瀬さん、キレキレですね」「これは蒲郡（第6局の対局地）がありそうだなあ」などと思い思いに感想を交わしていた。

　ちょうど永瀬が残り10分になったところで、藤井は6五の地点に歩を打った（107手目）。永瀬は5三の玉を4二に引き、藤井は6四に歩を取り込んでから6筋にと金を作った。まだ後手が有利とはいえ、このと金に活躍されるとまずい。ミスが許されない局面に突入していた。

指し直し局の藤井　©日本将棋連盟

　藤井が6三のと金を6四に引く。緊迫の終盤戦だ。時刻は午後10時を回っており、大盤解説会はとっくに終了している。藤井は残り4分、永瀬は残り5分。後手は1分をつぎ込んで7七の香を奪い、その香を6筋に打った。

「逆転だ」…永瀬に形勢の針は振れなかった

　だが形勢の針は名人側に傾いた。

「逆転だ」と誰かが声を上げた。

　打った香の効果が薄かった。ここは金でと金を取り、飛車の頭に歩を叩けば後手ペースだった。

　この辺りの代案について永瀬に尋ねると、「そうですね」と認めてはいたが、それ以上の言葉は出てこなかった。

　もう、永瀬側に形勢の針が振れることはなかった。

【次ページ】　笑顔の感想戦を終えた0時35分、永瀬への取材は…