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8キロ増“191キロ”に「太り過ぎ」の声も…新横綱・大の里はなぜ強い? じつは“常識外だらけ”の正体「本場所でこんなことをする力士はいない」
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荒井太郎Taro Arai
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2025/06/06 11:03
横綱昇進を決めた夏場所、支度部屋での大の里。すでに“綱の貫禄”が漂っていた
右は肩越しの深い上手を取らざるを得なかった大の里は窮地に陥ったが、ここで大胆な動きに出る。左で相手の頭の位置を右上手側にずらし、自身の体と右上手で相手を挟みつけるようにして、そのまま体を預けながら寄り倒した。
四つ身で攻める際は、差し手のほうに体を寄せるのがセオリーだ。そうすることで相手に突き落としや捨て身の投げなどの逆転技を仕掛ける余地がなくなるからだ。右上手のほうに体を寄せた大の里は、セオリーを度外視した“力技”で若隆景をねじ伏せた。しかも、攻めながら相手の頭の位置をずらすという器用な芸当までやってのけた。
場所後、改めてその真意を尋ねると「頭をつけられたので、無意識にやってましたね。今後、新たな武器になるかもしれない」と不敵な笑みを浮かべた。
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巡業や花相撲の余興として、相撲の禁じ手などを面白おかしく紹介する“初っ切り”ではよくある光景だが、本場所の相撲でこんなことをする力士は後にも先にも大の里しかいない。
負けっぱなしで稽古を切り上げ「これ以上やっても…」
大関3場所目の先の春場所で3度目の優勝を遂げ、いよいよ綱取りに挑むことになるのだが、場所後の春巡業は圧倒的な強さをアピールするには至らなかった。4月15日の東京・大田区巡業では、本場所は6戦6勝としている霧島と4番稽古をして4連敗。最後は相手の外掛けに腰から崩れ落ち、自ら稽古を切り上げた。
上位力士であれば、稽古は決して負けて終わってはならないという鉄則が角界にはある。昨年亡くなった元横綱の北の富士さんは現役時代、どうも調子が上がらず、格下相手に負けて稽古を終えようとしたら、のちに理事長となる春日野親方(元横綱栃錦)から「横綱、大関は負けて終わったらいけないんだよ」と諭されたという。
この日の大の里は「疲れもあったと思う。今日はこれ以上やっても……」という合理的な判断で土俵を降りた。こうした慣習や常識とされることにとらわれない発想の持ち主であることも、新横綱の強さの一端なのかもしれない。

