酔っ払った前田日明からの電話「俺にもう1回チャンスをくれ」船木誠勝が前田との初試合で“耳打ち説教”された日…UWFでの快進撃にあったウラ事情 

「あの試合が決まった時、自分の方から鈴木に『どっちが勝ってもいいから、道場でやっているスパーリングと同じように試合でもやってみよう』って言ったんですよ。先輩レスラーに対してはそんなこと言えないですけど、鈴木は後輩だったんで、『実験でやってみようよ』って持ちかけたら、『わかりました』っていうことで、打撃を封印してグラップリングだけの格闘技をやってみたんです。

　これは前田さんにも内緒で、鈴木と自分だけの了解で勝手にやったことなんで、今だったら干されるでしょうね。でも、やってよかったです。結果はヒールホールドで自分が勝ったんですけど、勝ち負けは関係なく、お客さんに対して『UWFは格闘技です』って、胸を張って見せられたような満足感がありましたから。あれがのちにパンクラスのようになっていく最初の試合でしたね」

　こうして格闘技への第一歩を踏み出した船木だったが、試合後、前田からかけられた言葉は、「地味やったな」のひと言だったという。それは当時の観客、UWFファンの反応も同じだった。あの頃の船木の立場は「UWFの次世代スター」であり、求められていたのは若さ溢れるハツラツとした闘い。博多の鈴木戦は、いま振り返れば歴史的に大きな意味を持つ試合だったが、実際にチケットを買った観客が沸くことはなかった。

前田日明との初対戦でレガースを外し…ファンは困惑

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　自分が求める闘いと観客から求められる闘いにギャップを感じながら、進むべき道を模索していた船木は、鈴木戦の翌月、90年5月4日の日本武道館で組まれた前田日明との初対戦でも、ひとつの実験を試みた。UWFで使用されるスネを保護するレガースを外し、通常のプロレスと同じリングシューズでリングに上がったのだ。UWF公式ルールではレガースを着用しないキック攻撃は禁止。前田日明という団体のトップと対戦するのに、なぜ自分の武器をあえて放棄するのか。ファンは困惑した。

「当時のUWFの闘いというのはキックと関節技が中心で、パンチの技術、とくに顔面攻撃の技術が欠けていると思ったんですよ。手による顔面攻撃は、プロレスの張り手の延長だったんで。それで自分は欠場している時にボクシングを習い始めたので、ボクシングの技術を使ってみようと思ったんです。鈴木戦はサブミッションレスリングだけでしたけど、今度はボクシングと関節技だけで闘ったらどうなるんだろうという実験でしたね」

　しかし、顔面パンチがルールで禁じられたUWFで、蹴りを封印した船木の打撃はほぼボディブローに限定されたため、試合はグラウンドでの膠着状態が目立つ展開となった。

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