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「遠山-葛西-遠山-葛西」阪神タイガース“暗黒時代”を支えた伝説の継投…崖っぷち左腕が野村克也に学んだ“奇策”の意味「巨人をチームとして見るな」
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米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/30 17:03

阪神再入団後、サイドスローに転向して貴重な中継ぎとして活躍した遠山奨志(1999年)
当時、野村や星野と直接会話をしたことはほとんどなかったという。
「第三者を通して聞く、ということがほとんどでした。ただ両監督のそぶりや、話すタイミングなどを見ていると、人を乗せるのがうまいなと思いましたね。気遣いというか、人を動かす力はずば抜けていた。僕の場合は、僕自身よりも家族へのサポートのほうがすごかった。家内の誕生日に花束を贈ってくれたり。家族を動かしたら、そりゃあ『あんた、やりなさいよ』となりますから。上手いなと思いましたよ。だから野球だけじゃなく、人心掌握という部分も勉強になりましたし、すごくいい経験をさせてもらいました」
「球児は孫みたいで可愛いんです」
2002年に引退後、星野に声をかけられ阪神の二軍投手コーチ、育成コーチを務めた。解説などの仕事を経て、浪速高校のコーチとして高校野球の世界へ。その後、監督を約5年間務めた。
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「高校野球は、難しくて、面白い。今悩んでいるところです。例えば、試合をやって大活躍しても、高校生は次の日、別人になってるんですよ。一回寝ただけで。それが読めないから難しい。それはまだ力がないからこそのバランスだと思うんですけどね。その分、伸びしろは無限にある。高校生活のうちの2年ちょっとですけど、携わることはやっぱり面白いです。だからやめられないんだと思います(笑)」
この4月からコーチを務める京都廣学館高校では、眼鏡をかけた生徒に「古田10世やな」と声をかけて笑うなど、選手と気さくに会話し着々と距離を縮めている。
「コロナの時期があってから、コミュニケーション不足の影響が結構大きいなと感じるんです。だから、馬鹿なことでもええから、いろんなことを話して。そういう中でその子のそぶりを見て、『この子はこうやな』というのがわかっていくんです」
選手と他愛ない会話をしている時は、目尻が下がりっぱなしだ。
「可愛いんです。孫みたいな感じで。僕ももうすぐ還暦なんで、『おじいちゃんやなー』とか言って。言葉はものすごく慎重に選びますけど、楽しく接していければ。うるさいなと思ってるかもしれんけど、まあええわと思って(笑)」
現役時代、一人一殺の世界で、一瞬に人生をかけて汗を流した職人が、今は高校生の遠い未来に思いを馳せながら、優しい目でグラウンドを見つめている。
〈全3回・完/第1回からつづく〉

