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「130キロで松井秀喜をどう封じるか」クビ寸前の31歳はなぜ巨人キラーに? 野村再生工場の最高傑作・遠山奬志「最後、松井にウソついた」
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米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2025/04/30 17:02

巨人・松井秀喜から三振を奪う阪神・遠山奨志(1999年)
「やり方は他の左バッターと同じです。直近2、3試合の松井の結果をチェックして、凡打の仕方、安打の仕方、どういう攻め方をしたか。チームの勝ち負けも踏まえて、勢いがあるとか、今は打てていないけど上がってきそうやなとか。あとは当日の雰囲気を感じながら。ほとんど(捕手の)矢野(燿大)のサイン通りに。あいつもものすごく研究して、初球の入り方は一番注意していました。
僕は140キロ、150キロを投げるピッチャーじゃない。130キロちょっとの球で、果たして当時12球団一の松井をどう抑えるか。力勝負では負けるので、目線を変えることが大事。だから左サイドにして、インコースにちょっと変化する球を使いながら、幅を広げるよう考えました。
あの年(99年)は、やっているうちに、松井が意識しすぎたところもあると思います。甘い球もあったんですよ。でも打たなかったり、ミスショットしたり。で、そのあとしっかり投げて打ち取ったとか。たぶんものすごく悩んでいたと思いますよ」
努力家・松井秀喜と天才肌・高橋由伸
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当時、松井は「(遠山の)顔を見るのも嫌だ」と漏らしたという。だが遠山は「それはこっちのセリフですよ」と苦笑する。どれだけ抑えても、決して余裕などなかった。
「あんな、何億ももらっているトップバッターですから。もう毎回ヒヤヒヤで、大汗ですよ。僕も必死やった。ミスはできない。松井に打たれたら僕はもう勝負するところがなくなるし、勝敗に関わるところだから、打たれたら何言われるかわからない。寮に帰れないですよね。
それに、松井はものすごく努力家で、1打席1打席変えてくるんです。空振りしたところを次はファウルしたり。こっちとしたら、そういうのが一番嫌なんです。やっていて面白かったですけどね。高橋由伸は天才肌で、感覚で打っているから、たぶんあまり対応はしてきていなかったと思う。だから僕は毎回同じような感じで投げられたので、どちらかというと楽でした。威圧感はそんなに感じなかった。松井のほうが悩ましかったです。『今日どこに投げても打たれそうやな』というのがありましたから」