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死球にブチギレ…理論派・藤川球児の“怒り”は「演技」か「本心」か? 番記者が見た“阪神タイガース首位”の要因「選手を競争させない」「ミスに厳しい」
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倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko
photograph byKYODO
posted2025/04/29 11:04

4月20日広島戦、頭部へデッドボールを契機に睨みをきかせた藤川球児監督(44歳)。当事者である坂本誠志郎(右)が止めに入った
選手を「財産」と表現したことがあるほど選手ファーストを軸にしているとはいえ、チームの運営には常に緊張感を持たせている。特にミスには厳格だ。
開幕戦で、村上頌樹が送球を捕り損ねて併殺を奪えないミス(記録は遊撃木浪の失策)が起きると、翌日すぐに手を打った。監督不在の甲子園での投手練習で、先発陣に同じシチュエーションの、ベースカバーのノックを繰り返しさせた。ここまで特化したメニューはシーズン中は珍しい。なぜ実施されたのか。才木の冗談めかした言葉から、首脳陣の狙いが伝わった。「村上がミスっていたので。僕もそれをしっかり見ていた。そういうミスがないように、村上にはしっかり言っときます(笑)」。
「投手はバントを決める」
似た事例は他にもある。3月22日のオリックスとのオープン戦で、富田蓮が犠打を失敗。その翌日、二軍の投手陣にはバント練習が課せられた。虎の首脳陣は念には念を入れるようにして、通常投手が打席に立たない二軍戦で、一軍クラスの投手が先発する試合は打撃機会を設けてバントをさせた。一、二軍を通じて「投手はバントを決める」という金科玉条ができあがった。
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一連の流れを受け、富田は開幕までに居残り練習でバントに励む日があった。ドラフト1位の伊原陵人に投げてもらってまで、生きた球で感覚を養った。意欲が実ったのか、伊原と同じ左腕の広島・床田寛樹から、開幕2戦目に犠打を成功させた。
シーズン中は不測の事態が頻発する。プロとはいえ、サインの見落としもあれば、イージーミスやボーンヘッドも出る。どれだけ準備をしても、完璧という言葉は砂上の楼閣のようにもろく崩れ去るのが当たり前だ。対処法は、指揮官によって様々。毎日のように試合はやってくるため、注意喚起で終わらせるリーダーもいるだろう。しかし、藤川監督は違う。問題をなあなあにせず、二度と起きないように、練習させる。こうした「徹底力」が、首位につける要因になっているのではないだろうか。
現役時代に火の玉ストレートで空振りの山を築いた豪腕のチームづくりは緻密だ。

