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53キロで無差別級に“本気の挑戦”…角田夏実はなぜ“笑っていた”のか?「90キロ、76キロに連勝」巴投げを浴びた選手の証言「階級が違うとは思えない」
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph byAFLO
posted2025/04/23 17:18

4月20日、角田夏実は無差別級の全日本女子柔道選手権に出場。自分よりはるかに体重の重い相手から2勝をあげた
「やっぱり私は柔道が好きなんだな」
案の定、角田は中盤以降、寺田との組み手争いに敗れ、後手に回ってしまう。スタミナや集中力も少しずつ落ちているように見えた。それでも試合終了間際、角田は伝家の宝刀である巴投げにトライする。寺田の両足を浮かせる段階までは持っていったものの、その後の処置を誤り、投げ切るまでには至らなかった。
角田は最後の巴投げからそのまま腕ひしぎ十字固めに持ち込もうとしたが、こちらも的確に対処された。巴投げから柔術で磨いた関節技へのコンビネーションは角田の必勝パターンのひとつ。対戦相手は角田対策として巴投げとともに、とられた片腕を伸ばされないように細心の注意を払っていた。
「巴投げは体重差もあるので、腰を落としたら防げると思っていました。でも、角田選手は片襟(をとった状態)だけでも十分にかける気持ちでいた。握力が強いのか、向こうの掴みを切れなかった」
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想定内と想定外。敗れてもなお、角田は爪痕を残していた。大会を盛り上げた金メダリストは「やり切った」と満足した笑みを浮かべる一方で、はっきりと悔しさも口にした。
「もっと上位で闘いたいという気持ちもあった」
とはいえ、気持ちと肉体は別ものだ。2回戦以降は疲労との闘いだったことを打ち明けた。
「1回戦が終わったときから疲労度がいつもの試合とは全然違っていた。海で遊び切ったあとの体みたいなダルさがありました。いつもだったら、(勝ったら)次の試合って感じでいけるんですけど、なんかもう気持ちと体が反していた」
今後について水を向けられると、角田は「毎日気持ちがコロコロ変わるような日々を過ごしている」と本音を吐露した。
「この大会に向けて、柔道だけに絞ってやっているということは自分の中ですごく充実していた。『やっぱり私は柔道が好きなんだな』と感じられる時間だった。(今後については)階級別で必ず勝たなければならないというプレッシャーの中でずっと闘っていけるのかと、どうやって自分の柔道を作っていけるのかをすり合わせながら考えたい」
万人を魅了する角田の微笑の正体、それは柔道に打ち込むたびに感じる日々の充実だったのか。ゴール地点はまだ見えない。

