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[巻頭随筆]ゆりかごは今日も揺れる

posted2025/04/25 09:00

 
[巻頭随筆]ゆりかごは今日も揺れる<Number Web> photograph by Bungeishunju

text by

松下雄一郎

松下雄一郎Yuichiro Matsushita

PROFILE

photograph by

Bungeishunju

 田淵がいた。掛布がいた。ブリーデン、ラインバックもいた。なのになぜ優勝できない……いや、それは置いといて、あの頃の猛虎打線には華があった。そら王さんにはかなわないだろう。でも、ツボにはまれば「空中戦」で敵を圧倒できる。あの巨人でさえも――。そんな猛虎に酔いしれながら、オレは育った。1970年代中頃。当時としては珍しく、家にはテレビが2台あった。

 一台は茶の間の一般的なカラーテレビ。もう一台は、ふすま一枚を隔てた小部屋にあった。親父が野球やボクシングの試合の観戦用にもらってきた。近所迷惑にならぬよう……。骨董品じみたアンテナ付きの白黒テレビ。これがとんでもない代物家電で、傍で騒ぐと、なぜか画面に横線が走った。

 ただでさえ滞空時間の長い、田淵のあの弾道。着弾までを黙って見守れというのはあまりにも酷な話で……テレビの前で思わず立ち上がり、親父によく張り飛ばされた。

 新井亮司、桜井広大、喜田剛、林威助、森田一成……思いつくままに挙げた。本当はもっと挙げられる。でもこのスペースではとてもじゃないけど全員は書き切れない。デイリースポーツでトラ番として過ごした21年間で取材した「次代の大砲候補」だ。たぶん、中には虎党の方でも名前を見ても思い出せない選手がいると思う。いずれも野手で天性の長打力を備え、次代の主砲として期待されていた。末は田淵か掛布か。戦後に別当薫、藤村富美男、土井垣武らが形成したダイナマイト打線。昭和後期にはバース、掛布、岡田を中軸として「ニューダイナマイト打線」を形成し、1985年には、その破壊力を表看板に球団史上初の日本一を達成した。その後は絶えて久しきダイナマイトの系譜、と書くと語弊がある。

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