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銀行窓口で「口座にお金がありません」と言われ…人気絶頂“巨人のドラ4指名を拒否→社会人野球でMVP”男の現在地「野球漬けでもいい。ただね…」
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田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2025/04/21 11:02

63歳になった瀬戸山満年。80年ドラフトで4位指名を受けた巨人を入団拒否し、その後社会人野球で活躍。破天荒な球歴を送った男の現在は?
もともとそこまで乗り気ではなかっただけに、落胆する。そんな瀬戸山がいたが、ボールを握り、ノックバットを振るうちに野球人の血が騒ぎだす。嬉々として白球を追う少年たち。少しずつではあるが成長する姿に「もっとうまくしてやりたい」と意欲が漲る。
2003年。監督を引き受けた瀬戸山は、このチームを「プリンスジャパン愛知」と命名する。由来はもちろん、かつての自分の居場所だったプリンスホテルである。
波乱万丈の野球人生…瀬戸山の現在は?
平日は名古屋の物流会社で働き、休日は弥富市のグラウンドで中学生を指導して、もう22年が経つ。「愛知プリンスヤング」とチーム名を変えた今も監督を務める瀬戸山は、「このチームからプロ野球選手が出るまでは辞められませんよ」と笑う。
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昨年夏の甲子園で優勝した京都国際や大垣日大などの強豪にも選手を送り出す一方、現役時代に社会人野球という高いレベルで揉まれてきたからこそ見えるものがある。
「今は少子化で入団する選手が減ってきていることもあるんでしょうけど、チーム内での切磋琢磨が希薄になっているというかね。だから、強豪校に行ったとしても競争に負けちゃう子も多いんですよ」
近年の中学硬式チームは、時に「強豪校に進学するための養成機関になっている」と否定的な目を向けられることもある。
瀬戸山は、それでいいと思っている。
「今の中学校って教員の負担を減らすためとかで、部活動がなくなってきているじゃないですか。そういう受け皿になればいいんじゃないですかね。そのスポーツが好きな子だけが一生懸命に打ち込める場所を提供する民間が増えるのはいいことだと思います。野球漬けでもいいんです。ただね、社会に出た時に苦労しないように、そこは大人たちがしっかり教育すべきだとは思います。私みたいにならないようにね、はははは!」
巨人からの誘いを断り、プリンスホテルでもプロ入りの機会を逸した。やや世間知らずで苦労もあったが、今、こうして地に根を生やして野球とともに歩めている。
そんな瀬戸山の豪快さが、後進たちの不安を打ち消す。「野球を続けていれば道は開ける」と前を向かせてくれる。

