将棋PRESSBACK NUMBER
「精神的にバグりました。自分が沼に」「嬉しさと畏敬の念、戸惑いが」“憧れの羽生善治戦”を筆頭に…タイトル経験者が語る“激痛の順位戦”
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byAsami Enomoto/Nanae Suzuki
posted2025/04/20 06:01

高見泰地七段(左)にとって、第83期順位戦B級1組でのターニングポイントとなったのは羽生善治九段との一局だった
「かなりきつかったです。今まで順位戦は月に1局だったのに3週間ペースになって精神的にバグりましたね。やるしかないんですけど。でも3勝2敗で斎藤君と当たるのかー、厳しいなって」
気持ち的には、かなりやばい感じでした
1993年生まれの斎藤慎太郎八段は高見と同学年だ。「ずっと先を行かれている存在」と高見は言うが、棋士になったのは高見が早く、タイトル獲得も半年先だった。ただ高見が叡王に輝いた時、順位戦で斎藤は遥か先のB級1組にいた。高見はまだ、C級2組でもがいていた。
「斎藤君には憧れや尊敬の気持ちが強いんです。公式戦で1回しか当たったことがなくてその時は負けました。食らいついても勝てるかどうかという感じだったんですけど、落としてしまいましたね」
ADVERTISEMENT
B級1組で初の連敗を喫し、3勝3敗の五分になった。
「もう気持ち的には、かなりやばい感じでした」と高見は振り返る。まだ指し分けなのだからいくら何でも焦りすぎなようだが、対局者の星読みはシビアである。
「自分は1月が抜け番だったので、年内が10局でした。その時点で上を見るためには7勝3敗を取らなきゃいけない。あとは6勝4敗か5勝5敗なんですけど、自分の順位で5勝7敗じゃ落ちる可能性が高い。実際、5勝7敗で落ちた先生もいますし。2月、3月に連敗することなんて普通ですよ。そう考えたら何とか年内に6勝しておきたいけど、3勝3敗からだと3勝1敗を取らないと6勝4敗にならない。なんというかこの辺は、強い馬に揉まれて馬群の中でもがいている感じでした」と高見は趣味の競馬に喩えた。
7回戦は大橋貴洸七段との一戦だった。この将棋を制した高見はまた一つ白星が先行した。
「4勝3敗になったのは大きかったです。年内は少し勝ち越しか五分くらいの成績で推移していたので、何とか走り続けることができました」
“憧れの”羽生戦が最も印象深かったワケ
8回戦の羽生善治九段戦が訪れた。リーグ中盤から終盤に差し掛かるところで、難敵が待ち構えていた。実は前期の12局の中で、高見が最も印象深かったのがこの羽生戦だという。
羽生は開幕から連勝したものの、その後5連敗。タイトル通算獲得99期のスーパースターが2勝5敗で苦しんでいた。高見は4勝なので星2つ差がある。しかし負けるとあっという間に1勝差だ。これもB級1組独特の現象だと高見は言う。