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将棋PRESSBACK NUMBER
「こ、ここでか!」王将・藤井聡太22歳に棋士達が震えたのは“プロ9年で初の2手目”だけでなく…「2回も驚いちゃったよ」「雁木の専門家みたい」
text by

勝又清和Kiyokazu Katsumata
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/06 11:00
王将戦4連覇を達成した藤井聡太。第5局で見せた凄みは「プロ9年で初の2手目」だけではなかった
永瀬はその状態を安定と見たか、飛車先の歩を切り自玉に金を引き付けて駒組を続けることを選択した。が、それを見た藤井はさっと角を引いた。うまい! おそらく中継を見ていたほとんどの棋士が唸ったろう。藤井の駒組は楽になり、逆に永瀬の角と飛車が攻撃の目標になった。
いつもとは逆に、永瀬のほうが時間を使っていく。永瀬は急戦から方針を変更し、玉を固めて待ち、藤井が次の一手を封じて1日目が終わった。
藤井猛「2回も驚いちゃったよ」
2日目、3月9日。藤井初の2手目△3四歩とあって、私は早朝に出立した。ところが電車が何やらトラブルで止まっており、高崎線の車中で封じ手を見ることに。私は当然、玉を左に動かして居玉解消する一手だろうと予想していた。
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それが……ええっ、金を上がったの?
車中なのに思わず声が出る。現代将棋では6二金・6三銀の形が良形とされる。それを金銀逆形にするとは。車中で「見えている世界が違うのか?」とメモしているうちに深谷駅に到着。駅からはタクシーで現地に向かい、藤井猛と副立会の佐々木慎七段に挨拶した。
藤井猛は「2回も驚いちゃったよ」と苦笑い。
「△3四歩には思わず声が出そうになったね。永瀬さんも予想していなかったんじゃないですかね。意表をつかれたという雰囲気だったね」
また封じ手についても「封じ手を開封したときね、えっ金上がり? と驚いたよ」と笑った。
早速3人で検討を進めるうちに、藤井の構想が明らかになる。飛車を2筋に回っての逆襲だ。藤井は自陣左辺を戦場にするため、5二の金を上がってスペースを作り、中住まいにしたのだ。
佐々木が「うまい組み立てですよね」と言えば、藤井猛が「永瀬さんに苦労の多い将棋だね」と話し、「中んちだから中住まいというわけじゃなかったんだね」と言って皆で笑う。
藤井猛が車で大盤解説会場に向かうということで、便乗させていただき渋沢栄一記念館に移動する。大盤の解説者は金井恒太六段と門倉啓太六段、聞き手は香川愛生女流四段。解説会は深谷市役所、将棋連盟深谷支部の皆様が協力して作り上げており、おもてなしの精神が行き届いている。1日目はとても寒かったということで使い捨てカイロまで配っていて、「今日は暖かくてよかったです」と市役所の方はほっとした声をあげた。駒の形をした“渋沢栄一シール”も配っており、この対局を盛り上げようという熱意が伝わってくる。来てよかった。
「一手一手がうまい…雁木のスペシャリストみたいです」
ゲストで登場した藤井猛はいつもながらの絶妙なトークでお客さんを楽しませていた。

