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甲子園の風BACK NUMBER
「野村克也監督から提案を」“阪神→楽天→巨人”元プロの智弁和歌山監督が教え子に“1200グラム木製バット”を勧めた背景「指導者の役目だと」
text by

間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/04/02 11:02

今センバツで木製の特注バットを使用した智弁和歌山の黒川梨大郎。背番号を含めて、元プロの中谷仁監督のチーム作りの背景が見えてくる
「ただ、高校では体の成長に差があって体格の大きい選手と同じようにしていても勝てない部分があります。自分の特徴を生かしたスタイルを確立していこうと切り替えました」
大谷の身長は175センチと平均的だが、体重は72キロとやや細身。1200グラムの木製バットは想像以上に重く、今までのスイングとは考え方を変える必要性を感じた。
「バットを振るというよりも、最初はバットに振られるイメージを持ちました。大振りせずに、バットの芯に当てることだけ意識しました」
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筋力トレーニングや振り込みでバットの重さに負けない力を付け、試合でも安打が出るようになった。今大会は13打数5安打の打率.385。内野の間を抜いたり、外野の前に落としたりする打球で持ち味を発揮した。犠打も5つ決めてチャンスを演出。木製バットの感覚に慣れると、犠打は金属バットよりもやりやすいという。
じつは現役時代「野村監督から“太い方が…”と」
じつは、特注の木製バット導入は中谷監督の現役時代の経験がきっかけとなっている。指揮官は楽天でプレーしていた当時を回想し、黒川と大谷に木製バットを勧めた理由を明かす。
「現役時代に使っていたのは、ちょうど2人が使っているような太さと重さのバットでした。私は打撃が苦手だったので、野村(克也)監督から『太い方が当たるだろう』と提案されました。黒川と大谷は色んなスキルを身に付けるために木製バットを使っています。打撃を得意としていない選手には、『こういう生き方もあるんじゃない?』と伝えていくのは指導者や先輩の役目だと思っています」
2人はスイングスピードをガムシャラに追い求めるより、スイングが速くなくても安打を増やしたり、レギュラーをつかんだりする確率を高める選択肢として示した。
打球を遠くに飛ばす打者にはロマンがあるが、飛距離だけが打力ではない。低反発バットに合わせた打撃を磨くのか、木製バットを使うのか。それとも、バットに左右されないフィジカルを作るのか。第1回で触れた智弁和歌山のチーム作りと同様に――高校野球には選択肢は様々あり、正解は1つではない。<第1回からつづく>

