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甲子園の風BACK NUMBER
「野村克也監督から提案を」“阪神→楽天→巨人”元プロの智弁和歌山監督が教え子に“1200グラム木製バット”を勧めた背景「指導者の役目だと」
text by

間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/04/02 11:02

今センバツで木製の特注バットを使用した智弁和歌山の黒川梨大郎。背番号を含めて、元プロの中谷仁監督のチーム作りの背景が見えてくる
今年のセンバツは低反発バットが導入されてから2度目となった。本塁打は31試合で計6本。ランニング本塁打を除くスタンドインは4本。柵越えが少ない流れは変わらなかった。前回大会は2本だった柵越えの本数に大きな変化はない。ただ、打球には違いが生まれていた。“低反発バット元年”と比べ、今大会は内野手の間を抜ける安打や内野手の頭を越える安打が増えた。
打球速度の変化はチーム方針の徹底と選手の適応力にある。上位に進出した高校の監督や選手は共通の言葉を口にしていた。
「低くて強い打球」
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例えば、ベスト4入りした健大高崎・青柳博文監督は「うちは、つなぐ意識で1点ずつ積み重ねるスタイル。低反発バットには順応しています」と語る。16安打9得点で花巻東に勝利した準々決勝では、15本の単打で得点を重ねた。その健大高崎に準決勝で勝利した横浜は、世代ナンバーワンと評される石垣元気投手に対して内野の間を抜く強い打球で攻略した。この試合、12安打のうち10本が単打だった。
「そうやって煽らないでください」と言ったこと
智弁和歌山も「低くて強い打球」を追求するチームの筆頭と言える。
2回戦のエナジックスポーツ戦では13安打9得点。12本の単打でつないだ。中谷仁監督は試合後、報道陣から「強打の智弁和歌山が復活した印象ですが」と質問されると、笑顔を見せながら慌てて否定した。
「そうやって煽らないでください。うちは攻撃のチームではありませんから。私も選手たちも、『いってやろう』という気持ちになってしまいます。うちのチームにはオーバーフェンスを狙える選手が少ない。今のスタイルで勝てているので勘弁してください」
中谷監督は低反発バットの影響以上に、個々の選手の特徴を重視した結果、野手の間を抜く低くて強い打球をチーム全体に浸透させてきたという。とはいえフルスイングや長打を狙う打撃を否定するわけではない。
「スキルやフィジカルが長けていてオーバーフェンスする力がある選手は、長打を狙ったスイングをした方が良いと思います。私たちのチームのように、その確率が低いのであれば、一番確率良く安打が出る方法を考えることで勝利に近づけると思っています」
こうも説いていた。
“1200グラムの木製特注バット”を使った2人
安打や勝利の確率を上げる手段の1つとして、智弁和歌山が取り入れたのが「特注バット」だ。