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「戦力外から開幕ローテへ」巨人・石川達也が先発要員に急浮上したワケ…MLB東京シリーズで鈴木誠也が「凄かったです」と絶賛したある球種とは?
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鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2025/03/29 17:02
MLB開幕シリーズのカブス戦で好投をみせた巨人・石川達也。3月30日の開幕第3戦での先発予定だ
「自由契約になったということを聞いてファームからの推薦があり、阿部監督と杉内(俊哉投手)コーチに相談したら『ぜひ獲得して下さい』ということで一気に話を進めました」
こう語るのは巨人の吉村禎章編成本部長だ。
先発要員に急浮上
そうして巨人入団が決まったのだが、ただまだこの時点では巨人首脳陣も「左の中継ぎで使えれば」程度の期待だったことは想像できるところである。
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しかし宮崎、沖縄キャンプでこのチェンジアップが阿部監督の目に留まった。そして実戦マウンドに立つと首脳陣の期待通りに無双の結果を残し、先発要員へと急浮上してきたのである。
こうして石川が先発要員へと浮上していく裏には、田中将大投手の状態もあった。阿部監督はキャンプ中から開幕第3戦の日曜日に先発させ、その後も“サンデーマー君”としてローテーションの一角を担ってもらうという構想を明らかにしていたが、オープン戦になってもなかなか田中の出力が上がってこない。そこで石川には3月2日のヤクルト戦以降はファーム戦などを含めて、毎週日曜日にマウンドに立たせ、田中に替わる日曜日の先発要員として調整をさせてきたのである。
そこでも石川は結果を残した。
キャンプから二軍戦を含めた実戦4試合9イニングスで被安打はわずかに2本、無四球無失点と好投を続けて、回ってきたのが田中の登板予定だった日曜日のカブス戦だったのである。ここでも3回をノーヒット、4奪三振で無失点と結果を残して、“影武者”は正式な日曜日の先発要員へと抜擢されることになった。
ただ石川には日曜日のローテーションを維持していくためには、どうしてもクリアしなければならない課題が残されていた。
「去年のデータもそうだったんですけど、右と左でちょっと偏りがあるんですよ」
課題は左打者への被打率の高さ
杉内コーチが課題としてあげたのが、左右別の被打率の違いだった。
石川が左の中継ぎとしてDeNA時代にあまり評価されなかった理由の一つに、左打者への被打率の高さがあった。2023年の左右別被打率は右打者に対しては1割2分5厘だったが、左打者には2割8厘。24年は対右打者が2割6分1厘に対して、左打者には3割1分と打たれてしまっている。
この背景にはさまざまな理由があるが、1つとして考えられるのが、左投手が左打者を封じる1つの武器となる外角に逃げていくスライダーが石川にはないことだ。石川は真っ直ぐ、チェンジアップにカーブ、小さくスライドするカットボールとシンカー系のスクリューボールが持ち球だ。石川が左打者と対戦するとき、外角へ逃げていく変化球は小さくスライドするカットボールとなる。このカットボールと対となるスクリューとのコンビネーションを生かす配球が、石川の対左打者用の基本的な配球パターンだった。
外角に逃げていく左投手独特のスライダーがあればとも思うが、そのことを聞くとこう頭を振った。

