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王貞治「1000本いけた」、金田正一「巨人を憎み、そして愛した」原辰徳「ジャイアンツには聖域がある」…Numberが記録した巨人軍レジェンドたちの言葉
posted2025/03/31 10:00

『読売巨人軍90周年+NEXT「伝説のナイン・ストーリーズ」issued by Number』の表紙は新旧ユニフォームの通常版のほかに限定版が3種。写真はONバージョン
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柳橋閑Kan Yanagibashi
野球は見るだけでなく、「読む」のもおもしろいスポーツだ。今回、読売巨人軍90周年を記念するムックのデスクを任され、最初に取りかかったのが、Numberの野球特集を片っ端から読んでいく作業だった。ムックに再録する過去記事を選ぶためである。
それと並行して、企画のコンセプトを固めていった。野球は「3」とその倍数「9」によって構成される数学的なスポーツである。ストライクやアウトのカウントは3つ。イニングは9回。選手は9人。
加えて、今回のテーマは巨人の90周年。巨人といえば長嶋茂雄。その背番号は3、90、33である。
そうした「3」「9(ナイン)」という数字にまつわる連想が、サリンジャーの小説のタイトル『ナイン・ストーリーズ』へとつながり、「伝説のナイン・ストーリーズ」というタイトルが決まった。
そこから、全体を大きく9つのストーリーで構成し、9つの時代ごとにベストナインを選出するというアイデアも生まれた。
コンセプトが決まった後は、ひたすらバックナンバーのページをめくり続けた。第一段階の候補は60本ほど。そこから候補を絞り込み、最終的に14本を選んだ。このムックを手に取ってくださる方のために、記事の背景などを含めて、以下に簡単な解説を付けた。読んでいただく際の参考になれば幸いである。
STORY(1) ON の伝説
Numberが創刊された1980年は、長嶋茂雄が監督(第1期)を解任され、王貞治が現役を引退した年である。初期のNumberは浪人中のミスターを繰り返しフィーチャーし、復帰待望論を打ち出している。
数あるONの記事から今回選んだのが、長嶋茂雄へのロングインタビュー[いまこそミスター伝説の真実を語ろう]僕はアウトロー的なプレイヤーだった。(玉木正之=文/Number Athlete File/2001年)と、Number1000号記念特集に収められた[比類なきハングリーキング]王貞治「1000本いけた、という思いもある」(鈴木忠平=文/1000号/2020年)である。
前者は、ミスターが残してきた数々の伝説について、本人が解説した貴重なインタビュー。長嶋茂雄独特の表現を活字で再現した玉木氏の手腕が冴える。
後者は、今も王貞治の胸にわだかまる現役終盤の後悔をえぐり出すことに成功している。著者の鈴木忠平氏はその後、2022年に『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。
STORY(2) V9 の軌跡
V9時代についてはさまざまなエピソードが残り、検証記事も多い。中でも読み応えがあるのが、V9巨人軍の「戦争」 「勝つ組織」はいかにしてつくられ、崩壊したか(岡崎満義=文/121号/1985年)である。[証言構成]読売ジャイアンツ「V9 最先端野球の勝利」。(阿部珠樹=文/NumberPLUS 20世紀スポーツ最強伝説(3)/1999年)と迷ったのだが、時代背景も含めてV9の全体像を捉えている前者を収録した。
著者の岡崎満義氏は、Numberの初代編集長である。編集者のかたわら健筆を揮い、長嶋茂雄に関する著書もある。また、この記事の取材者としてクレジットされている瀧安治氏はV9戦士の一人。引退後は巨人のコーチを務め、解説者、ライターとしても活躍。初期のNumberの巨人特集を支えてくれた功労者である。
STORY(3) エースの矜持
戦前の沢村栄治から近年の桑田真澄に至るまで、巨人のエースには栄光と悲劇、挫折と復活など、ファンの心に深く残る“物語”を持った選手が多い。
そうしたストーリーの中から、金田正一インタビュー 巨人を憎み、そして愛した俺の左腕(瀧安治=インタビュアー/121号/1985年)と、エースの座 江川卓 VS. 西本聖(荘田健―=文/194号/1988年)を再録した。
金田正一のインタビューは、豪放磊落、べらんめえ調のカネやん節が炸裂している。その一方で、じつは体のケアに細心の注意を払っていたことも分かる。いろいろな意味で昭和のプロ野球選手の凄みを伝えてくれる記事である。
江川卓と西本聖の二人は、巨人のエースの座に最もこだわり、ライバル意識を剥き出しにした選手かもしれない。後年、石田雄太氏が二人を取材して書いた[ライバル物語1982]エースは、1人。江川卓×西本聖(733号/2009年)、さらにNumberWebで読める続・ライバル物語 江川卓×西本聖 「エースは、1人」と合わせて読むのも一興かと思う。