サークル出身の経歴は「マイナスに取られることが多かったです」大阪国際女子マラソンで衝撃の日本人1位…23歳新ヒロインが実業団入社までの波乱万丈 

　ただ、体育会の部活に所属していない女子ランナーが実業団に進むというのは、現実的にはかなりのレアケースである。それまでジョギングしかしていないランナーがいきなり門をたたいても、なかなか色よい返事は返ってこなかった。

「ホームページの応援メッセージを送るような問い合わせフォームから連絡を送ったり、知り合いの伝手で紹介をしてもらったり……いろんな手法でチームにアクセスはしました。『基準タイムを切れれば』というチームもあれば、『そもそも採用は無理だけど、練習見学だけならOK』というチームもありました。ただ、ほとんどのチームには体育会の部活でやってこなかったというのをマイナスに受け取られることが多かったですね」

進路を実業団に絞ったものの「サークル出身」という経歴は総じてマイナスに働いたという　©︎NumberWeb

　これまで厳しい環境でやってこなかったのに、本当に大丈夫なのか。いままでは楽しい環境だからできただけじゃないか。市民ランナーで、自分のペースでやる方が向いているんじゃないか。「サークル出身」という色眼鏡はどこまでもついて回った。

ADVERTISEMENT

「やっぱりいくつも話を聞きに行って、断られてを繰り返すのはメンタル的にもきつかったです。でも、こっちも就活シーズンを捨てて動いているので、もう後に引けない（笑）。両親にも最初はめちゃくちゃ反対されましたけど、それを押し切ってやっていましたから」

「マラソンをやりたいので、大塚はダメですか？」

　そんな中で人伝に相談をしていたのが現在所属する大塚製薬陸上競技部の河野匡監督だった。

　陸連の役員を務める河野監督だけに、選手をステレオタイプでひとまとめにしない雰囲気が感じられた。また、親身に相談に乗ってくれる監督の人柄にも好感を持った。

　ただ、実は河野監督からも最初は別のチームを紹介された。

「出身が群馬ですし、大学も東京なので関東圏のチームの方がいいだろうということで紹介をしてくれて。ほかのチームを薦められた時点で『やっぱりダメなんか』と思いましたけど、ダメ元で『マラソンをやりたいので、大塚はダメですか？』と」

大塚製薬陸上競技部の河野監督は陸連の要職を務めた経験も（※写真は北京五輪）　©︎BUNGEISHUNJU

　河野監督としても、前述の大阪での走りを見て「あの走りでハーフまでトップ級と走れるのか」と小林のポテンシャルは感じていた。様々な縁が交錯し、大学4年の夏、ようやく小林の入社が内定した。

　そこからは少しずつチームの練習にも参加しはじめたというが、そのカルチャーショックは予想以上だったという。

「まずは練習の設定タイムのスピードに根本的についていけない。『本当にこのタイムでやるんですか』と聞いたくらいで（笑）。いわゆるスピード練習を大学で全くやっていなかったですから……」

【次ページ】　なぜ「異色の経歴」から急成長を遂げられたのか？