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「負の感情はない」「伊藤匠さんにメールしたんです」永瀬拓矢32歳“80分の本音”を聞いた記者が確信「藤井聡太七冠に勝とうと全力なら、また…」
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/02/11 06:03

立ちはだかる絶対王者・藤井聡太に、日々全力でぶつかる永瀬拓矢。彼の人間性に見せられるファンは多い
取材中に思い浮かんだ質問は、いい質問であることが多い――。
2021年に亡くなったノンフィクション作家・立花隆の『「知」のソフトウェア』(講談社現代新書)は私のバイブルで、そこに書かれている上記の一文を取材では強く意識している。永瀬に話を聞きながら、浮かび上がった質問はなかったか。
伊藤さんにメールを…将棋を教えていただけませんか
それは汚い字で記されていた。
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「いまは藤井王将と2日制で盤を挟んで棋力が上がっている実感があり前向きになれているということですが、では今シリーズが始まる前はどうだったのでしょう。去年の王座戦は3連敗と厳しい結果でしたが、2カ月もしないうちに王将戦の挑戦権を獲得されていますが」
あー、と永瀬は声を上げてから話し始めた。
「きっかけはありましたね。王将リーグの2局目で西田さん(拓也五段)と当たって、ひどいうっかりがあって負けたんです。帰りのタクシーで伊藤さん(匠叡王)にメールを送りました。将棋を教えていただけませんかって」
2人は普段から月に何度も練習将棋を指している間柄だが、それに追加して依頼せずにはいられないほど危機感を抱いていた。伊藤は快諾し急遽、機会が設けられた。
「そこで伊藤さんと指した結果、『自分は戦えるぞ』というファイティングポーズをとることができました。それで王将リーグの次の広瀬戦(章人九段)でいい将棋を指せたことが浮上のきっかけになりましたね。ターニングポイントだったと思います」
インタビューをお待ちしています、って
永瀬は自ら好機をつかんだのだ。2017年のABEMAの企画「藤井聡太 炎の七番勝負」で藤井と初めて対局して衝撃を受け、当時14歳の少年に自分からお願いして練習将棋を指すようになったエピソードを思い出した。
「何も動かなくても、人生で1回か2回はチャンスが巡ってきます。ただ自分からつかみ取りに行けば、チャンスは無限にあるんです」
永瀬は力を込めてそう語った。