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猛牛のささやきBACK NUMBER
「毎日、朝起きるたびに葛藤が」オリックスの“職人”が34歳で引退決断の理由「僕の中ではあのバスターのせいで…」伝説プレーと知られざる重圧
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2025/02/10 11:05
劇的な「サヨナラバスター」を決めてチームメートに祝福される小田
昨年は二軍にいる時間が長く、二軍ではスタメン出場で結果も出ていたが、なかなか一軍に呼ばれることはなかった。
「『これ本当に呼ばれんのかな?』という気持ちもありましたし、『これでもう1回一軍に呼ばれた時に、代走で行けるかな?』という気持ちが出てきたんです。僕は準備を大事にしていたんですけど、そこに気持ちを持っていけるかな、と。
途中から行く大変さを知っているので、そこを一度離れてしまうと、もう1回戻るのはきついかもな、と。それまでの3年間(2021~23年)はうまくやれていたんですけど、昨年はすごく難しく、壁に感じた。体は全然元気なんですけど、やっぱり気持ちありきだと思うので、この世界は」
「ナカジマジック」から学んだこと
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引退後は、育成コーチとしてオリックスを支える。中嶋采配をベンチでつぶさに見られた経験は、今後の野球人生に活きるはずだ。
「中嶋さんの野球は、スピーディーというか。1回1回、1球1球、目まぐるしく変わる。マニュアルがないというか、『こうなったらこうでしょ』というのが通用しない人でした。だからベンチでよく考えさせられましたね。その中で『中嶋さんだったらこう動くんだろうな』というのが、少しずつマッチするようになってきました。
相手が嫌がるとか、相手が考えていないことをやりますが、そこには絶対に根拠がある。例えばここはバッターが誰で、ランナーが誰だから、とかいろいろなことを踏まえて選択していると思うので、僕みたいに浅くはないと思うんですけど。
何を学んだかと言われると難しいんですけど、経験はしているので、それをうまく落とし込んで、若い選手の手助けになれば。導くというのではなく、手助けして一緒に、という感覚のほうが強いですね。僕もコーチ1年目ですから」
「みんなで支え合って…」
当初は中嶋前監督のもとでコーチ生活をスタートするつもりだったが、指揮官は昨季最終戦のあと退任を表明。
「びっくりしました。そんなそぶりはなかったので。一緒にやりたかったですけどね……。すごい人なので、やっぱりみんな、頼り切っていた部分はあったと思いますね、僕も含めて。中嶋さんならいろいろ見てくれる、やってくれる、と。だから、僕たちの成長を止めてしまっていると思ったのかな……。とか、いろいろ考えますね。
その思いに応えるというか、本当にしっかりやっていかないといけない。岸田(護)監督はプレッシャーもすごいと思いますけど、みんなで支え合ってやっていかないと」
勝てない時期も、3連覇も、スタメンも控えも経験してきたからこそ、見えるものもあるはず。第二の野球人生でも、きっと何かを起こしてくれる。(前編からつづく)


