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「見てたら、残念な気持ちになると思う」イチローさんが“今の野球”に疑問を投げかけた真意…「こういう選手が今少ない」会見で語った言葉の深さ
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笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byJIJI PRESS
posted2025/01/27 17:03
1月23日、米野球殿堂博物館で記者会見を行ったイチローさん
「ファンとして見てたら、残念な気持ちになると思う」
現役時代、イチローさんは試合中にダグアウトから離れることはなかった。現役晩年にはタブレットをベンチに持ち込むことも許されていたが、その端末に目を落とすこともなかった。彼が大事にしていたことは、試合展開をその目で見て、感じ、流れを読むこと。その上で相手投手の特徴を感じ取り、配球、癖、心理状態を自分なりに考察し、打席へと備えていった。
だが、悲しいかな、今は目の前で行われている試合から目を離す選手ばかりだ。そこに自らの脳で考える力や独創性は養われていくのか。「今の選手はデータに支配され、それを確実に実践しようとするロボットだ」と表現する関係者も多い。イチローさんはそんな今の野球に常に疑問を投げかけ続けている。そして、この時は多くのファンにわかりやすい例を挙げながら、言葉を続けた。
「例えば、その間に味方の選手がデッドボールを当てられて、もし意図的だと判断すれば、ダグアウトから出ていかなきゃいけない。でも、それ見られないじゃないですか、タブレット見ていたら。そういうことを考えてほしいと思いますよね。僕、ファンとしてそれ見てたら、すごく残念な気持ちになると思います。活用するのはいいんだけれど、(せめて)第三者に見えるようにしてほしくないなと。そういう思いがあるんですよね。だから、特に今の選手たち、現代の選手たちがここに来て昔の野球に触れるっていうのはすごく大事なことなんじゃないかと思います」
「三振オッケーになっちゃっている」
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また、昨今は打率3割を残す選手が非常に少なくなっていることにお気づきであろうか。イチローさんがデビューした01年は46選手が規定打席に達した上でマークしていたが、24年はわずかに7選手しかいない。この事実にもイチローさんは鋭い目で分析、疑問を投げかけた。
「三振オッケーになっちゃっているので、まずそれはすごく残念ですね。三振ってのは屈辱的な気持ちになるので。なんだっていいからバットに当てればチャンスはあるし、ファウルで逃げるとかね、そういうことができるんですけど、とにかく、少なくとも僕のアプローチと全く違う野球です。僕、甘い球なんか待たないんで、追い込まれてから」
今の野球は、分析担当から出されたデータに基づき忠実にプレーする選手が非常に多い。例えば打者ならば、状況、カウント別に出される投手のデータを頭に入れ、統計データで示された球種、コースを待つ。データとは違うかたちで投げられ三振となっても、チーム首脳は何も咎めない。逆にデータに従わず、自分なりのアプローチで失敗をすれば、「なぜデータ通りにプレーしない」と責められる。そんな野球が続いている。イチローさんは続けた。

