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20歳でF1デビューも狂い始めた歯車…でも「自信が揺らぐことは全くなかった」角田裕毅を支える挫折地点「落ちれば落ちるほど全てが見えた」《NumberTV》

posted2025/01/16 11:07

 
20歳でF1デビューも狂い始めた歯車…でも「自信が揺らぐことは全くなかった」角田裕毅を支える挫折地点「落ちれば落ちるほど全てが見えた」《NumberTV》<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

日本人史上最年少の20歳でF1デビューを果たした角田裕毅がをNumberTVで自らの「挫折地点」を明かした

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柴田久仁夫

柴田久仁夫Kunio Shibata

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Kiichi Matsumoto

 日本人史上最年少、20歳でF1デビューを果たした 偉才には、かつて新幹線で涙した絶望の日があった。「Sports Graphic Number×Lemino」制作のドキュメンタリー番組NumberTVから特別記事を掲載する。<全2回の後編/前編も公開中>
【初出:Number1112・1113号[挫折地点を語る]角田裕毅「初めてレースで涙を流した」より】

鳴物入りでのF1デビューも、狂い始めた歯車

 翌年はFIA F4選手権に参戦。史上最年少で優勝を飾るなどして、初年度から選手権3位に入った。そして 2年目の2018年は5連勝を含む7勝を挙げて、チャンピオンに輝いた。

 その活躍を見たホンダは、角田を翌2019年からレースの本場ヨーロッパに単身送り込んだ。初めての海外での一人暮らし。レースを戦うサーキットも、ほぼ全てが未知のコースだった。そんなハンデキャップにもめげず、角田はすぐに欧州式のレースに馴染み、FIA F3選手権を1年で卒業。F1直下のFIA F2選手権に進むと、シーズン序盤から優勝争いに絡んだ。

 この年の角田は最終戦まで激烈な選手権2位争いを繰り広げ、F1昇格を決めた。その戦いぶりで、フェラーリ黄金時代を築いた立役者の一人ロス・ブラウンから、「この数年で最高の新人」と激賞された。

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 2021年、角田は鳴物入りでF1に乗り込んだ。開幕戦では世界チャンピオン経験者のフェルナンド・アロンソ、キミ・ライコネンらを抜き去って、デビュー戦で初ポイントを獲得。角田の評価は、さらに高まった。しかし第2戦では予選アタックでクラッシュ、最後尾からの決勝レースでもスピンを喫してノーポイントに終わった。

 ここから角田の歯車は微妙に狂い始め、結果を出せないレースが続く。同じマシンを駆るチームメイトのピエール・ガスリーには、予選でもレースでも敵わない。無線交信で感情を爆発させ、汚い言葉を吐くことにも非難が集中した。はたから見れば、「第二の挫折」と言ってもいい時期だった。

 だが角田自身は、「自信が揺らぐことは全くなかった」という。

「それまでフォーミュラでは一度も事故ったことがなかったのが、3、4戦ごとにクラッシュするようになってしまった。狂ったリズムを元に戻せず、壁にぶつかっていたのは確かでした。でもドライバーとしての素質、自分に対する自信はずっとあったし、それが揺らぐことはなかったですね」

 長い低迷期はシーズン終盤まで続き、角田は21戦続けて予選でガスリーに敗れていた。しかし最終第22戦のアブダビGPで覚醒する。練習走行から予選までの全セッションでガスリーを凌ぐ速さを見せ、決勝レースでは自己最高の4位入賞を果たした。

「完璧なF1ドライバーに近づきたい」

 角田は今年、5シーズン目のF1を迎える。持ち前の速さはさらに鋭さを増し、去年はブラジルでの3位を筆頭に、24戦中11戦の予選でトップ10内に入った。欠点と言われたレースでの安定性も大きく改善し、9戦でしぶとくポイントを獲得した。

「でも僕はまだまだ、欠点だらけです。完璧なF1ドライバーに少しでも近づきたい。それが今後の目標ですね」

 では新幹線で泣いていた自分に、今ならなんと声をかけるだろう。

「いや、何も言わないかも。あの挫折があったから、今の自分がある。新たな自分を発見できたし、落ちれば落ちるほど全てが見えた。そんな貴重な機会でしたから」

<前編から続く>

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