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「暗闇のなか、ひたすら走り続けた」サッカー元日本代表・細貝萌が味わった“地獄”「リハビリで午前3時になることも」「自分との戦いでした」
posted2024/12/19 17:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Shigeki Yamamoto
愛する地元で引退できる幸せ
上州は赤城山から、強くて冷たいからっ風が吹き下ろす。
細貝萌は群馬の地でサッカーを始め、そして20年に及ぶプロキャリアをこの故郷で終えた。浦和レッズから欧州で7シーズンにわたってプレーしたのち、柏レイソル、タイを経て35歳になった2021年秋にザスパクサツ群馬(現・ザスパ群馬)にやってきた。大ケガに見舞われ、復帰してからは出場機会が限られ、まさに強い風に打ちつけられる日々。それでもひるむことなく、立ち向かっていく姿はチームから、サポーターからリスペクトされた。
現役引退を表明して臨んだ10月27日、ホーム最終戦となる正田醤油スタジアム群馬での徳島ヴォルティス戦に今季初めて先発した。後半7分に交代する際は試合が中断され、両チームの選手たちと審判団が花道をつくり、頭を下げながらそのなかを通っていく。感動的なシーンでもあった。
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花道のことはまったく知らなかったという。
「びっくりでした。まさか徳島の選手にまでやってもらえるとは。後でこの映像をもう一度見たんですけど、徳島のみなさんにちゃんと御礼を伝えておけば良かったなって。ザスパにも感謝しています。プレー時間も決まっていなくて行けるところまで行こうって。気を遣って(先発で)出してくれて、家族がいる前で、サポーターの前でプレーできて、ああやって引退セレモニーもやっていただいたわけですから。自分自身、良いプレーというか納得できるプレーがまったくできなかったので、引退を決めて良かったなって感じましたね。逆にスッキリしました(笑)」
10月に入って引退を決めてから咳が続く症状に見舞われ、コンディションは良くなかった。移籍して以降、このクラブに何を残せたかと自問自答すると苦しくなって、運転する車のなかで涙がこみ上げてくることもあった。だが徳島に0-2と敗れ、チームはまだ2試合を残していたが自分の出番はこれで終わりと思えた。スタンドからは自分に向けたチャントが聞こえてくる。愛する地元でこうやって引退できることに幸せを感じないではいられなかった。
イエロー覚悟で強くいったら…
強くて、冷たい風。
2021年5月にタイのバンコク・ユナイテッドを退団し、ザスパに逆オファーをしてその年の9月に群馬に戻ってきた。翌2022年シーズン、キャプテンに就任すると開幕3戦目の3月6日、アウェー、ベガルタ仙台戦でアクシデントが起こる。