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「二度とリングに上げるべきではない」58歳マイク・タイソンの“懐メロ興行”は成功だった? 7万人動員、Netflix6500万人視聴、金儲けは成功も
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGole Images
posted2024/11/20 11:12
58歳にして“復帰”したマイク・タイソン。人気YouTuberジェイク・ポールとの一戦を7万人を超える大観衆が見守った
開始ゴング直後こそ鋭いパンチでポールを追い回したタイソンだったが、1ラウンド2分の特別ルールでも2回を迎える頃には早くもスタミナ切れ。それ以降は足がバタバタになってしまうという流れは、2000年代前半、体力、気力が衰えた頃の典型的な負けパターンだった。
2005年に引退する直前のタイソンはKO負けを続けたが、ボクサーとしての技量は8回戦レベルのポールに元王者をKOで仕留める能力があった訳ではない。そういった経緯から、中盤以降はアクションに乏しいままラウンドを重ねていく。5、6回はタイソンのパンチのヒット数はゼロ。観客が沸くシーンはほとんどないまま、ポールが3-0の判定勝ちを収めた。最終的にタイソンが繰り出した97発の手数中、ヒット数はわずか18に終わった事実がこの試合の内容の乏しさを物語っていたのだろう(ポールは278発中78ヒット)。
とてつもない成功を収めたが…
このように昔の名前を換金する“懐メロ興行”が実現する背景自体は理解できる。上記通り、今回のイベントは大人気となり、Netflixのピーク時の視聴者は全世界で6500万人に達したという。米国内だけの数値なので単純比較はできないが、2015年の“世紀の一戦”、フロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオでもPPV売り上げは約450万件に過ぎなかった。
ボクシング史に残るカリスマだったタイソン、超人気ユーチューバーのポール、動画配信界の王者であるNetflixという3つの業界の巨人が手を組んだ“壮大な金儲けイベント”はとてつもない成功を収めた。おかげでタイソンとポールはそれぞれ3000万ドル以上の巨額報酬を受け取ったという。ビジネス面でこれほどの成果を叩き出したのだとすれば、最新の敗北の後でも、タイソンが依然として現役続行に色気を示していたのも当然なのかもしれない。
「(まだ戦えると)世間に証明する必要はない。他人の納得のためではなく自分が納得すればいい。(これが最後かは)わからない。状況によるよ」
ただ……ボクシングに関わるものとして、何よりもこのスポーツのファンとして、単なる金儲け以上ではないこのような試合がまかり通ってしまうのはやはり残念ではある。