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「ピッチャー歴たった1年、甲子園出場ゼロなのに…」オリックス3位指名のウラ側…193cm山口廉王(仙台育英高)とは何者か? 監督は「ドラ1候補でもおかしくなかった」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAsahi Shimbun
posted2024/11/19 17:01
オリックスに3位指名された山口廉王(仙台育英)。身長193cm、体重97kgの超大型右腕
須江に投げてはいけないと指摘されたのは安打された緩いカーブのことだった。
「僕は緩いカーブで空振りを取りたいと思ったんですけど、結果的に簡単に当てられちゃって。あそこは当てさせない配球を考える場面だった」
以降、山口は毎晩のように緩いカーブを打たれた場面の動画を見返した。
「ピッチャーは立ち上がりがいちばん難しいって言われるじゃないですか。だから、その動画を見ながら、毎日、先発のときはこういう気持ちで入って、こういうときはこういう配球をしてというイメージトレーニングをしていました。あそこから自分が変われたのかなと思っているんです。配球とかもすごく深く考えるようになったんで」
須江監督「ドラ1、ドラ2候補でもおかしくなかった」
どんなジャンルでもそうだが「初心者」は成長が早い。よく乾いたスポンジのように吸収力があるからだ。山口は3年春にひとつのピークを迎える。5月の練習試合では初めて球速が150kmの大台に乗った。
「あのときは、何かつかんだかなという感触がありました。ぜんぜん腕を振っている感じではないのに、こんなに(球速が)出るんだ、って。次の朝、すごい体が疲れていたんで、いつも以上に体全体を使えていたってことなんだと思います。
でも、そんなに甘くなかった。感覚は残っているんですけど、次の試合で、またそれを再現してみろといってもなかなかできなかったんです。あれ?みたいな」
須江は悔しそうに思い出す。
「あのまま順調に成長していったらドラフト1位、2位の候補になっていてもおかしくなかったと思いますよ」
順調なときほどプラトーに出くわすものだ。右肩上がりだった成長曲線が途端に停滞してしまう現象のことである。特に山口のような大型選手は一度、何かがズレると、その修正に時間がかかる。
夏の宮城大会では決勝の先発マウンドを託されたものの、聖和学園相手に3回途中、4失点で降板。2022年夏は全国制覇、翌23年夏は全国準優勝と続いた栄光のチームの歴史を途絶えさせてしまった。
「夏が近づくにつれて疲労がたまってしまい、思ったようなパフォーマンスが出せなくなっていた。あれ?というのはあったんですけど、気づくのが遅かった。もっと早い段階で気づいていたら、試合までの持って行き方とか工夫できたと思うんですけど」
最後の最後で投手としての経験の浅さを露呈してしまった。
《最後の夏、甲子園出場を逃した山口廉王。しかしプロ野球9球団から調査書が届く。オリックスが3位指名するまでに何があったのか?》
<続く>