酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
ドラフト裏話「え、調査書1枚だけ?」阪神育成3位に涙ぐむ女性、早川太貴も目を赤くして「悔しいと思いますが」くふうハヤテ会見に記者が密着
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2024/10/28 11:00
阪神育成3位で指名を受けた早川太貴。市役所勤務経験のある野球選手としても注目を集めそうだ
「再生」とは、NPBでプレーして戦力外になり、くふうハヤテに入団した選手を、再び実力をつけてNPB球団に送り出すこと。これはオリックスから来た西濱勇星が、今季4勝8敗ながら109回を投げウ・リーグ6位の防御率3.47を記録し、育成としてヤクルトと契約したことで、まずは目的を果たしたと言える。
あとは「育成」。このチームに入団したアマチュア選手が、NPB球団のドラフト指名を勝ち取ること。
指名されても下位以降だと思いますので
今回のドラフトで、指名される可能性があるのは、今年12月で25歳となる早川だった。
早川は異色の経歴を持つ。北海道出身、大麻高校から国立の小樽商科大を経て、エスコンフィールドがある北広島市の職員に。野球では社会人のウイン北広島に所属し、今年、くふうハヤテに入った。先発、救援で投げて25試合4勝7敗95回、73奪三振、防御率3.22の成績を挙げた。
記者会見場には地元・静岡を中心に多くのメディアが集まっていた。
「どの球団に入りたいですか?」
この質問に対して、幾分緊張気味の早川は「希望はありませんが、地元の日本ハムならうれしいのですが」と語った。ただし日本ハムからは調査書は来ていなかったようだ。
「どこでも行きます。指名されても下位だと思うので、待つだけです」
こうも口にした。
今、チームは宮崎県で行われている「フェニックスリーグ」に参加している。赤堀元之監督、選手も宮崎にいて、早川と池田社長だけが静岡に戻ってドラフト結果を待ち受けていた。
明治大・宗山塁や関西大・金丸夢斗らが注目された1巡目のくじ引きが終わり、2巡目以降はウェーバー制で指名が決まる。
続々と選手名が呼ばれる。毎年、ここから各会見場では重苦しい時間が流れるのだ。
指名が読み上げられるたびに、早川の顔にテレビカメラが向けられる。「喜びの瞬間」を撮ろうということだが、これはなかなかきついはずだ。
ここで今季も目立ったのは独立リーグ勢だった。
特に徳島インディゴソックスは10人以上が指名候補だったと言う。楽天3位で投手の中込陽翔、DeNA3位で内野手の加藤響が指名される。高知ファイティングドックスから投手の若松尚輝がDeNA4位、愛媛マンダリンパイレーツからも捕手の矢野泰二郎がヤクルト5位で指名される。
育成指名…報道陣もスタッフも本人も消耗
じりじりと時間が経過して、早川の名前が呼ばれることなく、支配下選手の指名が終わった。
もとより育成ドラフトでの指名は予想されてはいたが、ドラフト会議開始から2時間が経過し、報道陣もスタッフも「消耗している」感が否めない。筆者は早川の後ろに座っていたが、彼の幅広の背中は、だんだんうつむき加減になっていった。
育成ドラフトが始まった。同じように名前を読み上げるだけだ。