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オリンピックへの道BACK NUMBER
「クライミングは仕事にしたくない」森秋彩(21歳)が五輪後に告白…10代で脚光を浴びたエリートが、“パン屋のアルバイト”を志した深い理由
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byHirofumi Kamaya
posted2024/10/06 11:03
パリ五輪では4位入賞を果たした森秋彩(21歳)
「黒歴史みたいに隠していたんですけど…」
休んだことで得られたものは大きかったと振り返る。
「あえて心から登りたくなるまで待って『行ってみようかな』と再開したとき、クライミングを最初に始めた頃に心から純粋に楽しめている自分と重なりました。その感覚があったことでやっぱり自分にはクライミングが必要なんだなと気づけて、そこから義務感でやるんじゃなく自分の成長のために、自分の人生を彩ってくれるクライミングと付き合おうと決心できたと思います。
あの時期がなかったらたぶんオリンピックに出られていなかったと思います。辛い時期があったにもかかわらずオリンピックに行けたというより、そういう時期を乗り越えられたから手に入れられたオリンピックの切符だと思うので、決して無駄な経験ではなかったと思っています。辛い時期のことは過去の黒歴史みたいに隠していたんですけど、これだけ元気になってオリンピックにも出られたし、出していってもいいのかな、出した方が同じ境遇にある人たちにも希望を与えられるんじゃないかなと思いました」
森がパン屋でアルバイトをする理由
高校を卒業してプロになる選手も少なくない中、筑波大学3年生の森は競技と学業の両立を図ってきた。その考え方もクライミングを離れることになった要因とそこで気づいた思いと通底している。
「私はクライミングが大好きだから仕事にしたくなくて、だから学業と両立してやっています。学校でスポーツに対していろいろな視点から学ぶことで多様な考え方が身についてそれが競技にも生かせると思います」
競技と学業に加え、森がパン屋でアルバイトをしていることもパリ五輪期間中に報じられ、話題となった。
「小学校からずっと部活動に入っていませんでした。大学に入ってから上下関係でしごかれてきたバリバリの部活を通ってきた人たちの友達ができて、自分は社会的なマナーだったり礼儀だったり、そういうのが身についていないなと思いました。でも他の競技で部活動に入るわけにいかないから、社会勉強としてアルバイトを始めました。日中は忙しいので朝イチで入れるところを探した結果、パン屋さんのアルバイトでした」
思いがけない反響も起こったパリ五輪は、ただ楽しいだけの大会ではなく、巻き込まれた騒動も含め、貴重な経験を数多くした時間であった、と語る。《インタビュー第2回に続く》
(撮影=釜谷洋史)