ここ3試合、日本で3連続TKO勝ちを収めているドヘニーの怖さはそのニックネーム通り“パワー”だった。大橋秀行会長は「パンチの重さはネリ、ドネア以上」と戦前に話していた。ドヘニーが計量から1日かけて大幅に増量することも不気味な材料だった。今回は11kg増の66.1kg。もちろん井上がこれだけ重い選手と試合をするのは初めてだ。そして何より「アンダードッグという立場で下馬評を覆したことは何度もある」と語る37歳、元世界王者のこの試合にかける意気込みは侮れなかった。

「イノウエに戦略を変更させた」陣営は胸を張ったが…

　井上はガードを高く掲げてアップライトに構え、慎重に立ち上がった。ネリ戦で初回にダウンをした反省があったし、ドヘニーの一発を警戒する意味もあったろう。本人が「今回はセコンドの指示通り、丁寧に組み立てようと思った」と語れば、真吾トレーナーも「丁寧に、と口酸っぱく言っていた。それを尚弥がやってくれたので満足です」と納得顔。作戦通り慎重でありながら、なおかつしっかり圧力はかけていった。

真吾トレーナーの「丁寧に」という指示を忠実に遂行した井上尚弥　©Takuya Sugiyama

　対するサウスポー、ドヘニーはスタンスを広く取り、こちらは井上以上に強い警戒心を感じさせた。まずは井上のパンチの威力や角度を感じたいという狙いもあったのだろう。ディフェンスを重視し、そして打ち終わりに左の一撃を狙った。

　井上は2回にギアを上げた。ドヘニーの左に注意を払いながら、ボディへ、ガードへ、強いパンチを叩き込み始める。一転、3、4回は「ガードの上を打たせたり、自分の中でどう突破口を開いていこうか考えた」。自ずとドヘニーの手数が増え、ジャッジ2人が挑戦者を支持する。アルタムラ・プロモーターが試合後、「3、4ラウンドは井上選手に戦略の変更を強いたシーンを作った」と胸を張ったシーンである。

井上尚弥の強烈な左ボディがドヘニーの脇腹に突き刺さった瞬間　©Naoki Fukuda

　とはいえ、ドヘニーが一瞬でも井上を慌てさせたかといえばそうではない。右のタイミングを徐々につかんだ井上は4回から右ショート、ボディ打ちでドヘニーにロープを背負わせるシーンを増やしていく。ドヘニーも渾身の左を何度かリターンするが、井上はこれを難なくブロック。6回には再び強烈な右ショート、ボディ打ちで挑戦者を追い込んでいった。終了間際、右からボディ打ちでドヘニーをコーナーに追い込み、コンビネーションで攻め立てた。

【次ページ】　井上尚弥の見解「ああなってしまうのは仕方ない」