スポーツ百珍BACK NUMBER
「お父さんの助言だけじゃない」なでしこ“魔法の30m弾”全真相…19歳谷川萌々子の証言でわかった“異次元すぎ視野”「パスがズレた瞬間に」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byTakuya Kaneko/JMPA
posted2024/09/01 11:06
NumberWebの単独インタビューに応じてくれた谷川萌々子。彼女に“あの30mスーパーゴールの真相”とキャリアについて聞いた
止めておいた動画のシュートシーンを再生しようとしたところ……その10秒前から伏線があったようだ。それは頼れる先輩の精力的な動きを見ての予測である。
「ボールを奪われた瞬間がありましたよね。でもここで〈キコさん(清家貴子)が勢いよくプレスに行けているな〉と感じていました」
あらためて谷川にボールが渡るまでのプレーを振り返ろう。相手ボールを奪った清家はハーフライン上からドリブルで仕掛けたものの、ブラジルのマーカー2人に挟まれる形でボールを奪われた。
カウンターは不発に終わるのか。そう思いきや、右サイドにいた長谷川唯が瞬時に切り替え、それに清家が連動して圧力をかけた。その様子を中央やや後ろで見ていた谷川が、洞察したことがあった。それこそがブラジルのわずかな綻びの種だった。
シュート直前、ボールを見る一瞬前に空いたゴールを
「ボールを持っている選手から『少し選択肢に迷いがあるのかな?』という風に感じることができたんです」
右足でボールを止めたのはブラジルのDFラファエリである。清家のプレスを予期していなかったのか、左足アウトサイドでパスを送る。
「このパスがズレた瞬間でした」
相手MFケロリンがコントロールできず、ボールが転がってくる。ここで〈回収できる〉と判断するとともに、谷川はフィニッシュまでの道筋が見えた。
ここでの谷川の言葉に感じるのは、彼女が持つ視野の非凡さだ。
「ボールを見る一瞬前に、ゴールとの距離感、空いている空間を確認したんです。そのときに〈ちょっとだけ遠いかもしれない。でもこの距離なら、シュートの選択肢が入ってくるくらいの位置なので……〉と」
そう判断した谷川。転がってきたボールを捉えるまでに、自分自身にこう言い聞かせたという。
〈いつも通り、いつも通り、うん!〉
右足でジャストミートしたボールは、鮮やかな弧を描いてゴール左隅へ。ボールを奪うためのポジショニングと、ゴールを奪うためのシュート。2つの状況判断で同時に“最善手”を導き出したのだ。
だからゴールを決めた後も一番に両親の方に…
「本当に一瞬のことだったので、イメージ通りか言われると……ですが、本当にうまく入ってくれたなと思いました」
4万人超が詰めかけた大観衆の中での、劇的な決勝ゴール。谷川は先輩たちと喜びを爆発させた。その際、谷川はコーナーフラッグ付近へと駆け出して行ったのだが――ここでもう1つ、彼女らしい判断が働いていた。