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「なよなよしたバカなガキだった」ザック・セイバーJr.はなぜG1の頂点に立てたのか? 日本在住レスラーの素顔「引退後も日本に…」「両国が世界一」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2024/08/21 17:00
辻陽太からギブアップを奪い、『G1 CLIMAX 34』を制したザック・セイバーJr.。外国人レスラーとして2人目の優勝者となった
「英国のファンをないがしろにするようなことはしたくない。10月14日にIWGP世界ヘビー級王者になって英国に帰り、そこで防衛戦ができたら素晴らしいと思う。ハンマーロック・レスリング時代のオレの最初のトレーナーを称えたいんだ。日本での目標達成に関する話では、オレはいつも日本からの影響について言っているけれど、ハンマーロック・レスリング・ジムでの日々がなければ、オレはプロレスラーになっていなかった」
ザックは少年時代を懐かしむように話した。
「アンドレ・ベイカーの名前はよく出てくると思う。彼ほどオレに影響を与えた男はいないんだけれど、ハンマーロックにはジョン・ライアンという隠れたヒーローもいたんだ。彼らの名を広めることができればと思う。なよなよしたバカなガキだったオレにとって、この2人は心の支えだったんだ」
ザックは変幻自在のテクニックを使う。そのサブミッションは流れるように次々に変化する。
「当時は自分が何をやっているのかもわからなかったが、彼らのおかげでテクニカル・レスリングへの愛が育っていった。英国のレスラーだったからこそ、今のオレがある。ハンマーロック・レスリングとブリティッシュ・スタイル・レスリングのおかげだ。死ぬその日まで。オレはそれを守り続ける」
恩人への感謝も「彼以上にクールに引退できる人はいない」
そしてもうひとり、思いを伝えたい相手がいた。
「あとは、小川良成だ。彼は死ぬまでレスリングを続けると思っていたけれど、何も言わずにリングを去るなんて。彼以上にクールに引退できる人はいないね。それなのにオレが大げさに騒いでしまって……。小川さん、ありがとうございました」
ザックはノア時代に育ててもらった引退したばかりの小川に感謝した。小川の技である4の字式エビ固めも披露した。
「新日本のトップになることがオレの夢だったけれど、オレの日本でのキャリアはノアで始まったんだ。オレの心にはこれからも方舟がある。ノア道場での日々を感じるためにできる最善のことは、日本のプロレス界の頂点に立つことだ。それを10月に成し遂げる。年老いたバカ内藤の予定がどうなのかは知らないけれど。10月の時点の王者が誰なのかなんて気にしない。大事なのはこの素晴らしい両国国技館で、オレが王座に挑戦するということだ」
笑顔のザックのタイツには大好きな缶ビールが数本刺さっていた。