大社－早実戦をテレビで観戦し、大声援のリハーサルを済ませた。甲子園切符をかけた鹿児島大会では、準々決勝まで完全アウェーの状況をつくって戦ってきたという。

　主砲の正林輝大選手が明かす。

「相手の応援を自分たちへの応援だと感じてプレーできるように、あえて全校応援をつけずに試合をしてきました。相手は全校応援だったので、完全アウェーでも勝てる力をつけて甲子園に来ています」

「大丈夫という心のお守りを持って入れ」

　正林が守る右翼は、大社のアルプスの真横だった。仲間の声が聞こえないほどの応援に迫力を感じながらも、プレッシャーはなかったという。甲子園の魔物について問うと「魔物はいません。いるとしたら、自分の弱さです」と断言した。

　魔物はいないと証明するように、正林はバットでチームを勝利に導いた。1点リードの7回1死一、二塁からレフトへタイムリー。この打席まで、今大会は15打数1安打と当たりが止まっていたが、4番の役割を果たした。

　打席に入る前、正林は小田監督に声をかけられていた。あの呪文を唱えられたのだ。

「大丈夫、大丈夫」

　甲子園に魔物はいない。指揮官は自分の力を信じるように背中を押した。

「正林には『大丈夫という心のお守りを持って入れ』と打席に送り出しました。練習ではえげつない打球を飛ばしているので、全く調子が悪いわけではないんです。何も心配する必要はありません。大丈夫なんです」

大社の得点パターン、そして“馬庭の雰囲気”封じ

　精神的なサポートだけではなく、小田監督は大社に勝利する対策も講じていた。まずは、守備。大社は、無死または1死三塁からスクイズや内野ゴロで得点するパターンを持っている。

　小田監督は相手が得意とする形を封じるため、極端な前進守備を敷いた。

　4回裏だった。

　同点に追いつかれて、なおも無死二、三塁で内野手を大幅に前に出す。

「相手の攻撃は分かっていたので、いかに防ぐのかだけを考えていました」

前進守備からの本塁封殺で得点を許さなかった　©Hideki Sugiyama

　ここで先発の今村拓未投手からバトンを引き継いだ早瀬は2者連続でセカンドゴロに打ち取って、三塁ランナーをホームでアウトにした。そして、最後は藤江龍之介選手を空振り三振に斬ってピンチを切り抜けた。

　攻撃では勝負のカギにしていた大黒柱の攻略に成功した。5回途中から大社のエース・馬庭優太投手が登板すると、小田監督は選手たちに、こう伝えていた。

【次ページ】　正直、ものすごい圧力を感じました。それでも…