オリンピックへの道BACK NUMBER
「最初のホールドをつかめない」スポーツクライミング、154cmの森秋彩20歳に不利なルートセットに批判も…本人は毅然「身長は関係ない」
posted2024/08/12 17:03
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Tetsuya Higashikawa/JMPA
8月10日、スポーツクライミングの女子ボルダー&リードの決勝が行われた。森秋彩は五輪初出場で4位入賞の成績を残した。
昨年の世界選手権では銅メダルを獲得し、今大会でも表彰台の期待が集まっていた。
「なるべくしてなった成績だと思うので、素直に受け入れようと思います」
試合を振り返り、森は語った。
得意とするリードでトップに立つなど持ち味は発揮した。表彰台との差が生まれたのは、前半のボルダーで決勝進出8人中7位にとどまったところにある。
そのボルダーが、試合中から大きな波紋を投げかけることになった。
「最初からつかめない」ホールド
第1課題、森は何度もホールドに飛びつくがつかめず登れない。結果、ただ一人0点に終わった。完登者が多く出たこの課題で、大きく差がつくことになった。
森のパフォーマンスに原因があったわけではない。154cmと決勝進出者の中で最も身長が低い森にとっては、スタートのホールドをつかむことのできない高さに設定されたことが大きく響いた。
ホールドの配置などは、「ルートセッター」と呼ばれる専門の担当者が設計する。特定の国籍に偏らないように、複数名がチーフのもとで担う。日本にも国際大会を担う資格を持つルートセッターたちがいる。
ルートセッターにより思想は少し異なるかもしれないが、「簡単すぎず、難しすぎず」というおおまかなところは共通するだろう。誰でも完登できるものではなく、誰も完登できないものではない、ぎりぎりのラインを模索する。
その上で、「強い者だけが登れるように」あるいは「より難しい課題をつくれば、選手のレベルを上げることにつながる」という考えを持つ人もいる。また、技術よりもフィジカル面、運動能力に重きを置いたルートセットが増えているのではないか、と指摘されたこともある。機械的に設定されるものではない以上、ルートセッターの主観は排除できない。
そうした前提を踏まえた上で、今大会では全般にホールド間は広めの感があった。象徴的な現象が第1課題に表れたが、それに限らず、森にとってはシビアなルートセットも少なくなかったのではないか。