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「日本スタイルも出し切った」イヨ・スカイが“WWEでは使えない大技”を…林下詩美が女子プロレス新団体で叶えた夢「今日は紫雷イオが見れた」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/07/23 17:17
試合後に握手を交わすイヨ・スカイと林下詩美
林下「憧れていた紫雷イオが見れたのかな」
初対戦に「満足してます」とも語った林下。イヨ・スカイの中に紫雷イオを感じたからだろう。でなければ負けて満足することなどありえない。
「今日の相手はイヨ・スカイでしたけど、自分はずっと紫雷イオさんを追いかけてきました。SNSとかいろんな場面でも。今日は私が初めて見た時から憧れていた、追いかけてきた紫雷イオが見れたのかなと」
おそらく“紫雷イオと闘って負ける”という経験も、林下には必要だったのだ。試合を見ながら思い出したのは、マリーゴールド旗揚げ後に高橋奈七永とのシングルマッチをアピールして実現させたこと。トップ選手なのに、あえてベテランからの“パッション注入”を望んだのだ。「パッション注入マッチ」は、奈七永が若手選手相手にやってきたことだ。
若手の通過儀礼を、自分も経験してみたかったということだろう。彼女はデビュー以来、新人王から若手王座、タッグに6人タッグとハイペースでベルトを巻いてきた。“赤いベルト”はデビュー2年あまりで獲得している。
実力があったから出せた結果なのだが、それにしても出世のスピードが速い。“赤いベルト”を失った時点でキャリア3年4カ月。普通ならやっと若手を脱するといった時期に頂点から陥落したのである。目標を見失ってもおかしくはない。
「前の団体ではできなかったことが今はできている」
だから林下は動いたのだ。団体を引っ張り、ユニットをまとめる役目ではなく一選手として何ができるかを確認するためにマリーゴールドに加わった。“飛び級”のキャリアでは経験できなかったことも味わいたかった。それがたとえば“パッション注入”だった。
「前の団体ではできなかったことが今はできている。そういう意味でも楽しいです」
もしかしたら“憧れの紫雷イオと闘って力の差を痛感する”という経験も、若手時代にできなかったことの一つなのかもしれない。あとほんの少しだけ早くデビューしていたら、あるいはイオのアメリカ行きがもう少し後だったら実現していたはずの経験ができていなかった。
しかし2024年7月の両国国技館で、あり得たはずの可能性、若手時代の“欠落”は埋まった。この日ばかりは勝ち負けの問題ではなかったのだ。自身の歴史に“イヨ・スカイという名の紫雷イオ”を取り込んで、林下詩美のレスラー人生はさらに強固で豊かなものになった。