イヨが見せた“日本の女子プロレス”

　その6年強で、林下はイオがスターダムで作ったユニットQueen's Quest（QQ）に入り、自分もリーダーになった。イオと同じように団体最高峰の“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムのチャンピオンになり、女子プロレス大賞も受賞。そして築き上げた地位を捨ててマリーゴールドに移籍すると、いきなり夢が叶うことになった。

　日本に戦場を移した状態ではなく“WWEスーパースター”のままでの対戦。それこそ誰にも予想できなかったことだ。しかも、である。6年ぶりの日本での試合に現れたのはイヨ・スカイであると同時に紫雷イオでもあった。

　先に入場した林下も、後から入場したイヨもマスクを着けていた。入場用マスクはQQのスタイル。日本の団体で林下詩美と闘う意味を、イヨは十分すぎるほどに考えていたのだ。

「（海外とは）意識するところもまったく違ったし、見せようと思っているものも変えてこの試合に臨みました。今月末にWWEの日本公演があるので、WWEスタイルのイヨ・スカイはそこで見てもらえる。ここ（マリーゴールド）では違うものを見せていこうと。歓声が起きる間もアメリカとは違って、そこからもう“日本だ。帰ってきた”って凄く愛おしい気持ちになりました」

“日本仕様”の闘いを見せたイヨ。レフェリーは和田京平が務めた

　イヨが見せた闘いは、言わばジャパニーズ・スタイル。“日本の女子プロレス”だった。バック転からのドロップキックにトペ、場外へのムーンサルト・アタック。WWEでのキャラクターとはやはり違う。その姿にはスターダム時代のキャッチフレーズ“天空の逸女”が似合う。加えて海外での活躍で佇まいがおそろしく洗練されてもいた。

場外の林下に思い切りのいいトペ。この日のイヨは“飛びまくり”だった

「出さざるを得なかった」試合後にイヨが明かしたこと

　フィニッシュは鮮やかなフォームのムーンサルト・プレス。試合を終えたイヨに「久々の“日本の女子プロレス”はいかがでしたか」と聞くと「本当に楽しかった」と答えてくれた。

「やっぱり（WWEでは）使える技も限られてくるので」

　フィニッシュの一つ前に出したのはツームストーン式パイルドライバー。「パイルドライバーはWWEでは見られないですから」とイヨは言う。首や頭部へのダメージが大きいためだ。

フィニッシュ前にはツームストーン式パイルドライバーを繰り出したイヨ

「最後、林下選手を仕留めるために出さざるを得なかった。彼女に引き出されたんじゃないかなと。日本スタイルも世界スタイルも全部出し切って闘うことができました」

　憧れは捨てる。そう言って大一番に臨んだ林下はギリギリのところまでイヨを追い込んだ。最大のフィニッシュ技であるハイジャック・ボムを決めることにも成功した。ただ、それすらカウント2で返してしまうのがイヨ・スカイの底力なのだった。

「やっぱりイヨ・スカイは強かった。壁の高さを感じました。でも壁は高ければ高いほど燃えるものなので。今日はイヨ・スカイと試合をするという夢が叶いました。次の夢はイヨ・スカイを超えることです」

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