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“久保建英のいとこ”から“陸上界のニューヒロイン”に…16歳で800m日本チャンピオンの久保凛 日本選手権で見せた「ホントのすごさ」とは?
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byAsami Enomoto
posted2024/07/01 06:01
前評判通りの強さを見せ、日本選手権初出場で初優勝を達成した16歳の久保凛。決勝の舞台ではこれまでのレースで見られなかった一面も
ただ、裏を返せばそれは若いランナーらしい勢いを活かした「怖いものなし」の走りだったとも言える。1つのパターンのレースしか経験していないというのは、それ以外のケースへの対応力が未知数であるとも言えた。
ところが日本選手権の決勝では、一転してクレバーな走りを見せた。
号砲が鳴った後、オープンレーンになる100m付近で先頭を窺うのはいつもの通り。だが、決勝ではシニア選手のプライドを見せた塩見綾乃(岩谷産業)や、高校の先輩にあたる川田朱夏(ニコニコのり)といった選手が先頭を譲らなかった。
もし、当初のレースプランにこだわって、あえて先頭に出ようとしていたら。ここで無駄に力を使うことになっただろう。だが、久保は焦らなかった。
「いつも通り最初から前に行こうと思っていたんですけど、先に塩見さんが先頭に行かれたので。じゃあ、落ちついていこうと。そこでレースパターンを変えて、ラストの250mくらいで仕掛けようと考えました。終盤で田中選手が前に行きはった時に、『ここで抜かれてはいけない』と思っていたので、抜かれずそれに対応してから、自分のスパートをかけることができました」
初の日本選手権決勝の舞台。しかも高校生の優勝候補として、周囲からの注目度も高かった。もちろんプレッシャーもあっただろう。その状況下で、予想外の展開にも対応できる適応力は、走力以上の凄みを感じた。
クレバーだったスパートの瞬間の「ある動き」
白眉はその田中のバックストレートでの仕掛けへの対応だろう。
久保は、田中の仕掛けに反応して先頭に出た後、残り150mほどでギアを切り替えた。その直前、スタジアムのオーロラビジョンにちらりと目をやっている。自身の後ろに控えた田中や、位置を上げて来ていた2021年王者の卜部蘭(積水化学)らの表情と位置取りを確認していたのだ。
そこまで冷静に確認したうえで、「ここならいける」というタイミングで一気にスパートし、突き放して見せた。