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「辞めるのはいつだってできる」引退も考えた井上愛里沙を説得した眞鍋政義監督のひと言「お前を最後に選ぶかどうかは分からない。でも…」
posted2024/06/20 11:01
text by
眞鍋政義Masayoshi Manabe
photograph by
Yuki Suenaga
「眞鍋さん、井上が話をしたいと言っています」
井上愛里沙は古賀より一つ年上。Uカテゴリーから将来を期待されていたのは古賀と同じだが、歩んできた選手人生はずいぶん異なる。京都の舞鶴出身で、中学は岡山県の強豪、就実に進んだ。全中(全日本中学校バレーボール選手権大会)で活躍して、そのままバレーエリートの道を進むかと思いきや、高校は地元に戻り、西舞鶴高校に進学。本人はバレーよりも医療関係を目指したかったようだ。
ただ、その才能をまわりが放っておくはずはない。2013年のU20世界選手権大会に唯一の高校生として選ばれ、準優勝に貢献した。その後、女子のエリート選手としては珍しく、Vリーグではなく大学進学を選び、筑波大学に入学した。
U20での活躍を見て、私はリオ前に彼女を代表に登録した。ただ、A代表で活躍するのはリオよりも先、東京だろうと考えていた。
その後、彼女は東京オリンピックの強化指定選手に選ばれ、大学生としてユニバーシアード競技大会に3大会連続して出場。銀メダルを1回、銅メダルを2回獲得している。大学卒業後は久光製薬スプリングスに入団。順調にステップアップしていった。
私としては、井上は間違いなく東京オリンピックに出場すると思っていた。ところが、中田久美監督は最終メンバーから井上を外した。そこは監督それぞれの考えがあるから仕方ない。しかし、井上の失望は大きかった。もう代表はこりごり。そのシーズンのVリーグを最後にバレーも辞めようと考えていたらしい。
私はそんな事情はまったく知らず、純粋に戦力として必要だから彼女を選ぶことにした。すると、久光の酒井新悟監督から、「眞鍋さん、井上が話をしたいと言っています」と電話がかかってきた。東京でメンバーから落とされたことで、疑心暗鬼になっていると言うのだ。
電話で井上愛里沙に伝えたこと
そこで電話で井上と話をした。そのときも古賀同様、率直に私が思っていることを伝えた。彼女が傷ついていることは分かっていたので、まずは励ますことを第一に考えた。