甲子園の風BACK NUMBER
仙台育英“じつはドン底だった”今の世代…主将の胸中「イライラすることが多く」甲子園で優勝、準優勝…最強メンバー“1つ下”の苦悩
posted2024/06/09 06:00
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph by
Hideki Sugiyama
想像してみてほしい。
2学年上の先輩は全国制覇。しかも、東北勢として初めて甲子園で優勝するという、重い扉をこじ開けての偉業達成である。
1学年上の先輩は、全国準優勝。甲子園決勝で慶應義塾の勢いの前に敗れたものの、浦和学院や履正社といった激戦区の名門を倒しての2年連続決勝進出だった。
そして今年。周囲は「今年の仙台育英はどこまで勝ち進むのか?」という目で見てくる。ライバルたちは「仙台育英に一泡吹かせてやる」と野心をむき出しにして向かってくる。選手からすれば、やりにくいことこのうえないスタートだったに違いない。
2024年、仙台育英に光はあるのか――。そう思わざるを得ない状況だった。
主将の告白「イライラすることが多く…」
昨夏から新チームの主将についた湯浅桜翼は、もがき続けていた。
「ただでさえ時間が短いのに、目的意識が見えない部員も多くてイライラすることが多くなりました」
湯浅は身長168センチの小兵ながら、昨夏の甲子園でも3番打者を任されたポイントゲッターである。のちに侍ジャパンU-18代表候補に選出されたように能力は高いものの、本来は感覚肌でリーダーとしてチームをまとめるタイプではなかった。湯浅は偉大な先輩と比べ、取り組みに甘さが見える仲間たちとのギャップを埋められずにいた。
ミーティング中に湯浅が厳しく指摘しても、部員たちに響いている様子が見られない。焦りが募るあまり、湯浅は「自分でも何を言っているのかわからない」と悪循環にも陥った。人間が人間を動かすことの難しさを痛感した。
昨夏の甲子園で2年生ながら高校球界屈指の守備力を評価されて先発出場した登藤海優史は、湯浅の苦悩を感じ取っていた。