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「お腹にだけはボールを当てないで!」妊娠発覚もサッカーを…なでしこW杯優勝メンバー岩清水梓はなぜ引退撤回したか「非難されても仕方がない」
text by
岩清水梓Azusa Iwashimizu
photograph byLars Baron-FIFA/Getty Images
posted2024/06/08 06:00
なでしこジャパン2011年W杯優勝メンバーの岩清水梓。そこから8年後、人生の転機を迎える
そして二人でとことん話し合い、もし、万が一、それでお腹にいる子どもと出会えない結果になったとしても、それが私たちの人生で、私たちが選択したことだから納得しよう、と決めた。
それくらい、強い覚悟の上の決断だった。
責務を全うするには、周りに迷惑をかけないためにも、すべてが終わるまでは誰にも話さないことにしようと決めた。
ただ、そうは言っても、現場でなにかがあったときにも逆に迷惑がかかるからと、私がベレーザに入ったころからずっとお世話になっている、広報の竹中百合さんにだけは打ち明けることにした。
気分が悪くなっても、2戦連続ゴールを決めたことで
竹中さんには妊娠と、それからの一連の流れを話し、カップ戦が終わるまで絶対に誰にも言わないでほしい、と口止めをした。今思えば、竹中さんには一人にだけ重責を背負わせてしまったようで、本当に申し訳なく思っているし、それ以上に感謝している。私が練習や試合をする様子を、どんな気持ちで観ていたらいいんだと、誰にも話せないなか、不安と恐怖でいっぱいだっただろうな……。
妊娠が発覚してから最初の試合は、アウェイで新潟への遠征だった。移動日のその日は電車が少し遅れていて、集合場所の駅までは、混んでいる急行に立ったまま乗っていた。すると、なんとなく気分が悪くなり、その気持ち悪さは、新幹線に乗っても、ホテルに着いても続いていた。おかげで晩ごはんはほとんど食べられず、コンディションはとてもいいとは言えなかったが、翌日の試合では2試合連続となるゴールを決めることができて、充実感のなかでそれはうやむやになっていた。
「お腹にだけは当てないで!」と思っては…
振り返れば、あれが妊娠初期の「つわり」だったのかもしれない。でもそのときは7月の中旬で、かなり暑い日が続いていたため、私は気持ち悪いのも、食欲がないのも、頭が痛いのもすべて「夏バテのせいかな?」くらいに思っていた。もしこれが「つわりだ!」と思っていたら、もっと深刻に考えて、メンタルにも影響していたかもしれない。そう思うと、真夏の暑さで紛れてくれたのは逆によかったのかな、とも思う。単に鈍感だったのかもしれないけれど。
そうして、チームが順調に勝ち進み試合を続けていくなかで、自分の覚悟とは裏腹に、心のなかに“母親”である自分が宿っているのを思い知った瞬間があった。