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井上尚弥、1Rのダウンの理由は…?「試合直前に大きく腕を回し」「眉間にも力が」現場カメラマンが見た.vsネリ《東京ドーム決戦》の異様
text by
北川直樹Naoki Kitagawa
photograph byNaoki Kitagawa
posted2024/05/14 11:00
5月6日、東京ドームで行われた井上尚弥vsルイス・ネリ。異様な環境だったドームの熱狂を、撮影したカメラマンはどう感じたのか
東京ドームの演出は格別だった。選手入場時に火柱が上がり、轟音が鳴り響いた。
先に入場したのは、挑戦者のルイス・ネリ。ネリはメキシコの国旗を背に靡かせながら、リラックスした様子でリングに向かって行った。レンズ越しに、落ち着いた黒い目が見えた。
前日計量を500gアンダーでパスしたネリの体つきは、山中慎介との2戦目よりもか細く見えた。わざとなのかわからないが、ネリは計量時に衰弱した様子を見せることが、多いように思う。今回もそうで、減量失敗とも思えたほどだ。ポジティブに捉えればよく絞れていたが、ガリガリに痩せた上半身が気になった。
続いてドームに入ってきた井上尚弥は、いつになく力んでいるようだった。ここ数試合は入場曲にテレビドラマ『GOOD LUCK!!』のメインテーマ「DEPARTURE」を使っていて、比較的リラックスした様子で歩いていた。この日は、布袋寅泰が生演奏する映画『新・仁義なき戦い。』の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」を携えて舞台を進むと、頷きながら会場全体をゆっくりと見渡した。眉間には力が入っていて、過大な気合いがみて取れた。
東京ドームのボルテージは最高潮。いままで経験したことのないほどの熱気が、そこにはあった。
「東京ドーム」が井上尚弥に与えた影響は?
この特殊な環境は、少なからず井上尚弥のメンタルに影響したようだ。後に「浮き足だった」と本人も認めている。試合開始直前に大きく腕を回す仕草、序盤の大ぶりなパンチがそう思わせた。これまでにも似たケースはあったが、ここに付け込むことができたのは、ネリがはじめてだった。
前述のように井上にはさほど大きなダメージはなく、カウントを目一杯使う冷静さと、よりディフェンシブな戦い方にスイッチしたことで立て直しを図り、すぐにペースを取り戻した。この男に“底”は無いのか……。初めて見る井上の“凄さ”だった。
スピードとファンダメンタルに大きな差があったため、その後は一方的な展開になった。井上は2R、5Rにネリからダウンを奪い返し、最後は6Rにド派手な右ストレートを炸裂させて試合を決めた。望遠のレンズ越しにも伝わってくるパワーパンチで、まさに“炸裂”という表現が相応しいものだった。