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オリンピックPRESSBACK NUMBER
バド東野有紗の母が語る“わたがしペア”奇跡の結成秘話…震災後、福島に戻って組んだ運命の人「勇大は本当にやさしい子なんですよ」
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byItaru Chiba
posted2024/05/02 11:07
今年1月のマレーシアオープンで優勝した“わたがし”こと渡辺勇大&東野有紗ペア。パリ五輪では2大会連続のメダルが期待される
東野と同様に富岡一中に越境留学していた渡辺と初めてペアを組んだのは、震災後の2012年。インドネシアで開催されたジュニアの国際大会だった。ペア相手がいなかった、いわば余り者同士の“急造ペア”だったが、2人はこの大会でなんと3位入賞を果たす。
ペアを組んだ瞬間から相性は抜群。スピード感もコンビネーションも、何も話さなくてもうまくいった。最初は「ミックスダブルス」という種目があることさえ知らなかった東野は、渡辺とペアを組んでから同種目の面白さを知り、この先も渡辺と組みたいと心底楽しさを感じた。
その後はともに富岡高に進学。高校生になってもペアは継続した。当時、東野は洋美さんにもこんなふうに話していたという。
「勇大とペアを組んでプレーしてみて、すごく“合う”んだっていう話をよくしていたんですよ。有紗が高校3年時に世界ジュニア選手権で3位となったときも、『勇大くんとならオリンピックに行ける! 世界一になれる』って手応えを感じていたようで。それなら(渡辺を)誘うしかないじゃないって言っていたんですよ。勇大は有紗が組みたくて組めることができたパートナー。運命の人と10年以上ペアを組んで、今も世界で戦っている姿を見ると、本当に夢を叶えていてすごいなって思うんですよ」
「勇大はお兄さんみたい」
中学時代から知る渡辺の存在は、洋美さんにとっても心強かった。
「勇大は本当にやさしい子なんですよ。有紗のお兄さんみたいなところもあって、いろんな場面で(東野も)頼りにしているとこともあると思います。きっと勇大くんがいなかったら有紗もここまで来られていなかった」
そんな2人がダブルス代表として東京オリンピックに出場したことは、ここまで貫いてきた娘への思いが報われた瞬間でもあった。
コロナ禍であいにく現地に行くことはできなかったものの、テレビに張り付いての応援。予選から手に汗握る試合展開に生きた心地がしなかった。一番近くで支え、悩みや苦労を共にしてきただけに、銅メダルを獲得した瞬間はテレビの前で「嗚咽していました」。
「試合当日の13時ぐらいにLINEのビデオ通話で有紗から報告があったんですよ。有紗は『やったよー』って満面笑顔でしたけど、その間も私はずっと泣いていて(笑)。最後はお互いに『ありがとう』という言葉でしたね」