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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「逆に学ばせてもらっています」“レスリング最強女子”藤波朱理20歳の父が明かす“イマドキの親子関係”「娘に怒られることも(笑)」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byGetty Images
posted2024/04/28 17:01
2023年のレスリング世界選手権53kg級を制した藤波朱理。指導者でもある父・俊一さんと日の丸を掲げる
試練は続く。初戦の相手は優勝候補の奥野だった。すでに強化合宿では奥野と当たる機会もあり、その内容を聞く限り勝機は十分にあると睨んでいた。結果は朱理のフォール勝ち。その瞬間、場内は大きなどよめきに包まれた。俊一さんにとってはうれしい誤算だった。
「最初から勝つつもりだったけど、まさかフォールするとは思いませんでした」
その勢いで朱理は決勝でマークしていた入江も下し、全試合無失点で優勝を果たした。さらに翌21年6月の全日本選抜選手権でも奥野と入江を返り討ちにして優勝を飾り、世界選手権への切符を手にした。俊一さんは「シニアの世界でも絶対に優勝できる」と予想していた。
「この年は延期になったオリンピックが2カ月前に行なわれていたので、強い選手はそんなに出ていない。それでも、世代交代のチャンスだと思いました。さすがに試合内容までは予想できなかったですけどね」
「性格的にはマスコミに注目してもらいたいタイプ」
初めてのシニアの世界の舞台で、朱理は圧巻の強さを見せつけた。初戦から決勝まで全試合テクニカルフォール(現テクニカルスペリオリティー)勝ち。フォールならまぐれもあるが、得点差による「コールド勝ち」は実力差がないとできない。その意味でもセンセーショナルな世界デビューだった。
筆者はこの大会を現場で取材しているが、朱理が緊張している素振りを微塵も感じさせなかったことを覚えている。大舞台でもまったく物おじしない性格なのだ。
いみじくも俊一さんは言う。
「性格的にはマスコミに注目してもらいたいタイプ。記者に囲まれる方が喜んでいる」
初の世界選手権での衝撃は続く。ミックスゾーンで筆者が日本語でやりとりしたあと、UWW(世界レスリング連合)の取材が待ち受けていた。通訳は用意されていなかったが、英語での質問を受けるたびに朱理は迷うことなく、よどみない英語を返していたのだ。
俊一さんは「英語でのやりとりは事前に準備していました」と打ち明ける。