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「で、デカい!」緊張するカメラマンに曙は優しく微笑み…格闘家としての“唯一の白星”に見た横綱の執念「立っているのがやっとの状態で…」
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2024/04/18 17:24
2005年3月、韓国・ソウルで格闘家としての初白星をあげた曙。「立っているのがやっとの状態」でチェ・ホンマンとの“日韓横綱対決”に臨んだ
2003年の大晦日は、民放3局で格闘技の試合が放送された。サップvs.曙の試合の瞬間最高視聴率は43.0%を記録し、同時間帯のNHKの紅白歌合戦を超える快挙を達成。私はUFCの初期からMMAを撮影していることもあり、この日はK-1ではなくPRIDEのリングサイドにいた。その選択の是非はさておき、歴史的瞬間に立ち会えなかったことには後悔が残っている。
ソウルで手にした執念の初勝利
MMAを含めた曙の格闘技での戦績は1勝13敗と、成功を収めたとは言い難い。貴重な1勝は、2005年3月19日の『K-1 WORLD GP 2005 in SEOUL』でもたらされた。私は幸運にも、この勝利の瞬間を撮影することができた。
同大会はグランプリに出場するアジアの代表を決めることが主たる目的で、曙が出場したのは8人によるワンデイトーナメントだった。初戦の相手は43歳で現役復帰した角田信朗。曙は2度のダウンを奪い、文句なしの判定勝ちを収めた。
印象的だったのは、勝ちに対する彼の執念だった。目の前にある白星を必死の思いで、無我夢中で獲りにいったその姿――あの巨体で3分3ラウンド、常に動き続けていた。だが、勝者として手を上げられた瞬間の彼は、疲れ果て立っているのがやっとの状態だった。リングを降りた後も自力では歩けず、セコンド陣に肩を借りて花道を引き上げてゆくほどだった。
なぜボロボロの曙はリングに上がったのか
準決勝の対戦相手は、1回戦を100秒で勝ち抜いた韓国相撲シルムの横綱チェ・ホンマン。日韓の横綱対決が決まったところで、大会はひとまず休憩となった。私が関係者用の通路を歩いていると、曙の姿がある。彼は試合を終えたままの格好で、壁を背にゼイゼイと息を切らしていた。正直なところ、このまま準決勝に出場するのは難しいのではないかと感じた。
30分後にイベントは再開され、私は緊張しながら曙の出場に関するアナウンスに耳を傾けた。しかしそれは杞憂に過ぎなかった。民族衣装を纏ったホンマンが先にリングに上がると、花道にはテーピングで左足をガチガチに固めた曙の姿があった。
曙はゴングと同時にラッシュをかけるが、効果的な打撃は当てられず、逆にカウンターのパンチを受ける。ダウンこそ免れたが、これ以上は無理と判断したセコンドがタオルを投入。わずか42秒のKO負けだった。