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「で、デカい!」緊張するカメラマンに曙は優しく微笑み…格闘家としての“唯一の白星”に見た横綱の執念「立っているのがやっとの状態で…」
posted2024/04/18 17:24
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
私が初めて曙を撮影したのは2003年11月。相撲協会を退職し、大晦日のボブ・サップ戦が発表されてから間もない頃で、雑誌の撮影だった。取材時間が限られているのでメインカットを最初に撮り、その後にインタビューという段取りになった。
撮影者の勘違いにも優しく微笑み…
準備を終えて曙の到着を待っていると、彼は約束の時間に遅れることなく部屋へ入ってきた。「デカい!」と思わず心の中でつぶやいた。テレビでしか見たことがなかったが、目の前に現れた身長203cm、体重233kgの巨体は、想像をはるかに越えるスケールだった。仕事柄、身長が高い選手は何度も撮影しているが、彼の場合は体の“厚み”が全く違うのだ。
私はその巨大さと存在感に緊張して、すっかり「テンパっていた」のだろう。相撲の世界で頂点に立った横綱であることを当然理解していたにもかかわらず、外国人選手を撮るときと同様に「英語で話さないといけない」と勘違いしてしまった。
英語で「さあ、撮影を始めましょう。この位置に立ってください」と指示を出したところ、曙は優しく微笑みながらこう言った。
「自分は日本人ですから、日本語で大丈夫ですよ」
その瞬間、私はようやく我に返ることができた。こちらの勘違いを咎めることのない横綱の気遣いに、ホッと胸を撫で下ろしたことは言うまでもない。
あの“歴史的瞬間”を撮り逃した後悔
サップ戦の2日前、全選手が参加するK-1の公式スタジオ撮影で、再び曙を撮った。しかしその表情には余裕がなく、不安げな様子だった。グローブを付けての打撃練習やステップワークなど、相撲とはまったく違う環境でのトレーニングや調整方法が上手くいっていないように見えた。少し動いただけでも額から汗がにじみ出て、ルールで定められたフルラウンド(3分×3回)を戦い抜くのは難しいように思えた。
対戦相手のサップはいつもと同じ調子で身体に張りもあり、好調を維持しているようだった。何よりもサップにとってK-1ルールは得意な試合形式だ。前年には“ミスター・パーフェクト”と呼ばれたアーネスト・ホーストを2度にわたってKOし、自信を深めていた。
勝敗は経験豊富なサップが圧倒的に有利と予想された。事実、曙は1ラウンド2分58秒で豪快なKO負けを喫した。