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山川穂高「大ブーイング凱旋」の裏側…西武の後輩選手は「感情移入しちゃう」「山川と再会のハグ」記者が見た“愛憎のベルーナドーム”
text by
中島大輔Daisuke Nakajima
photograph byNanae Suzuki
posted2024/04/13 17:07
試合前、西武の選手やコーチと談笑していた山川穂高。打席ではブーイングを浴びせられたが、実際の現地での雰囲気は…
「(ブーイングは)打席に入る前は聞こえますけど、打席に入ってカウントが進んでいくときは集中していますので。結果どうこうより、今井とは初対戦でした。今井、すごい球を持っていたなという印象です。真っすぐの軌道は見たことがないような、うなっている真っすぐだったので。まず速いという印象があり、その後に変化球。(スライダーは)いいところに落ちていましたし、やっぱりいいなと思いました」
あのすさまじいブーイングも気にならないほど、山川と今井は勝負の世界に没入していた。両者の言葉も踏まえて振り返ると、トップアスリートならではの集中力に改めて感服させられた。
英国でのダービーを彷彿とさせる雰囲気
言うまでもなく二人の対決は、山川のFA移籍がなければ実現しなかったものだ。もちろん不祥事は山川に非があり、ファンも含めて西武球団に多大な迷惑をかけた事実は一生消せない。
同時に思い出したのが、筆者が15年ほど前に暮らした英国のサッカースタジアムだった。特に「世界で最も激しいダービー」と言われるセルティック対レンジャーズは、ファンが心の底から愛情と憎しみをぶつけ合い、選手はスタンドの声に背中を押されて激しいプレーを応酬する。宗教も含めて因縁が絡み合う、極上のスポーツ文化が根づいていた。
山川が“凱旋”したベルーナドームは、本場英国のダービーと同じような雰囲気に包まれていた。試合後、山川はこう振り返っている。
「(ベルーナドームでの試合は)もちろん意識しました。(西武は)敵にしたら、怖いなという印象はもちろんあります。ただ、僕も当然感謝していますし、育ててもらったことに変わりはないので、そこは忘れていません。また明日も勝負があるので、こっちはこっちで必死にやっていくというところかなと思います」
愛と憎悪、力と技、極限の集中力…
愛と憎悪。ファンが発露する感情は、プロスポーツを演出する何よりの要素だ。暴力や人格攻撃に至らなければ、ブーイングも含めて表現の自由は尊重されるべきだろう。
力と技。投手と打者による真っ向勝負は、野球の最もわかりやすい魅力である。
極限の集中力。日本シリーズやクライマックスシリーズ(CS)という大舞台のような緊張感が、ペナントレース序盤の試合で味わえた。
選手、ファン、メディア、そして球団運営サイド。どの視点から見ても、ここまで盛り上がる試合は年にそう何度もないだろう。
4月12日、平日の夜に埼玉県所沢市のベルーナドームに2万1691人が訪れ、ソフトバンクが2対1で逆転勝利して終わった一戦には、スポーツの魅力がすべて詰まっていた。