「みんな勘違いしてるんだよ。俺がカネのためにK-1やったと思ってるけど、カネの話は一切してないんだよ。言われた金額で試合したんだから。もう、カネじゃないんだよ！　これで息子たちが大きくなって、『おまえのお父さんはカネでK-1に上がった』とか言われたら恥ずかしいじゃないですか。だからお金の話は一切してないですから。ボクの気持ちの問題だけでしたね」

明かしていた「相撲界を離れた本当の理由」

　ただし、谷川プロデューサーの発言にカッとなっただけの理由で相撲界を離れたわけではない。曙さんはこうも語ってくれた。

「いろんなことを考えると、自分の中では相撲界に残るのは難しいと感じてたんですよ。親方になるっていうことは、自分の家が相撲界になるじゃないですか？　奥さんは女将さんにならないといけないし、子供も毎日（相撲）部屋の中で暮らさないといけない。そういうことを考えたときにボクは自信がなかったですね。

　あとは親方になると、弟子をある意味、使い捨てにしなきゃいけないようなことがあるじゃないですか。欲しいときは家まで行って、親御さんに『この子を絶対に強くしてみせます』って言ってスカウトして部屋に入れて、1、2年経って思うように出世できなかったり、ケガしたりしたら家に返すっていうのが、自分にはできなかったですね。

　相撲界に入って一生懸命稽古しても、全員が強くなれるわけじゃない。みんな同じ夢を持って15歳くらいで入ってきても、20歳くらいでもうダメっていうのがほとんどじゃないですか。だから都内にこんなにたくさんちゃんこ屋さんがある。ボクは人の家に行って頭は下げられますけど、『この子を絶対に強くしてみせます』なんて、嘘はつけないって思ったんですよ。自分が子どもを持っていると、親の気持ちになるんです。それを考えると、自分が親方を続けるのは難しいなとも思っていましたね」

　こうして曙さんは格闘家に転身。TBSで放送された2003年大晦日のボブ・サップ戦は、史上初めて民放の裏番組がNHK『紅白歌合戦』を上回る視聴率43パーセントを獲得。このボブ・サップ戦含めてK-1や総合格闘技では結果が出なかったが、2000年代の狂乱の格闘技ブームに、元横綱・曙の存在は欠かせないものだったと言っていい。

2003年の曙vsボブ・サップ　©AFLO

プロレス界の救世主となった曙

　その後、曙さんはプロレス転向をはたす。そのきっかけは2005年、世界最大のプロレス団体WWEからの出場オファーだった。これを受けて、’05年4月に米国カリフォルニア州ロサンゼルスで行われた年間最大のイベント『レッスルマニア21』に出場。身長213cm、体重200kgのビッグ・ショーとお互いまわしを締めての“相撲マッチ”を行い、叩き込みで勝利した。プロレス界の頂点である『レッスルマニア』にゲスト出場して、その後、本格的なプロレスラーとして活躍したのは曙さんくらいだろう。

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