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セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
「大金を稼げるのに、なぜギャンブルを?」依存症克服へ…“借金4億7000万円”イタリア新鋭MFや名FWルーニーの“リアルな治療プロセス”
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images,Takuya Sugiyama
posted2024/03/28 17:27
ユーベのMFファジョーリやイングランドの名FWルーニーはキャリアの中で、ギャンブル依存症を克服するための生活を経験している
「セリエAの選手数は約500人。私の専門分野の一般的統計モデルにあてはめると、彼らの中に最低でも10人から15人のギャンブル依存症の選手がいる計算です。『同年代と比べて高額のサラリーと自由時間を多く持つ』等の条件を加味すれば、依存症の選手がリーグ全体で30人、40人いても何ら不思議はありません。今回の事件は氷山の一角でしょう。表面化していないだけで、サッカー界全体ではかなり多くの人間がギャンブル依存症に陥っているはずです」
W杯優勝に導いたロッシもキャリアの汚点があるからこそ
2012年、EURO本大会直前のイタリア代表合宿へやはり警察が捜査に立ち入った国際スポーツ賭博スキャンダルがあった。アジア圏シンジケートによる大規模な試合工作が疑われ、選手やOB、関係者から多くの逮捕者が出た。当時、事件を担当したトリノ地検検事の発した一言が今も頭にこびりついている。
「賭け事は人間の持つ本性の一つ。撲滅することは不可能だ」
確かにギャンブルも違法サイトも無くすことは非現実的だろう。だが、ギャンブル依存症は克服できる可能性がある。
練習の傍ら週2回通うセラピーで、ジャッレ医師は4年前に他界した名FWパオロ・ロッシを引き合いに出しながら、ファジョーリへ「EURO2024への代表招集を狙ってみてはどうだい」と穏やかにけしかけている。
2016年にイタリア・サッカー殿堂入りした球聖ロッシには、1980年の八百長疑惑による出場停止処分というキャリアの汚点がある。だが彼はユベントスへの移籍を契機にどん底から這い上がり、82年スペインW杯に出場すると得点王と優勝、さらにバロンドールまで勝ち取った。
人生のセカンドチャンスはあるのだ。
完全に克服できないかもしれない。けれど…
啓蒙イベントで依存症を克服できると思うか、と問われた“しくじり先生”ファジョーリは、率直な言葉で答えた。
「自分が克服できているか、正直わかりません。もしかしたら完全に克服はできないかもしれない。けれど家族や信頼できる友人に囲まれていい方向に向かっている。そんな気がするんです。今は試合に出たい。少しでも早く、サッカーの試合のアドレナリンを感じたい」
ファジョーリの出場停止処分が明けるのは5月19日だ。
6日後の今シーズン最終節、モンツァ戦が復帰戦と見られている。
<第1回からつづく>