炎の一筆入魂BACK NUMBER
「右腕を下げてみないか」カープの2年目右腕・益田武尚が、黒田博樹の言葉に投手人生最大の決断を下して得た開幕一軍の可能性
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2024/03/11 11:00
2月17日のロッテとの練習試合で3番手として登板した益田
キャンプ、オープン戦では先発でも起用された益田を中継ぎとすることを、新井貴浩監督が3月6日に明言した。開幕一軍当確を示唆するような言葉に、期待感が感じられる。
「先発と中継ぎ。両にらみで調整してきたけど、『中継ぎで行くぞ』と伝えて、本人もわかりましたと。先発が早めに降板する形になったらロングもできるし、同点の場面ももちろん、1点ビハインドでも。仮に先発争いさせるとして、(ニ軍スタートとなって)ファームで並走させておくのは、ちょっともったいない。いい球を投げているし、いいものを見せてくれているので」
監督就任1年目の昨季は先発陣の安定もあり、ロングリリーバーの起用はあまりなかったが、シーズンを通した先発投手のマネジメントの必要性を感じている。先発の負担を減らす意味でも、試合を立て直す役割としても、益田が担う役割はブルペンに欠かせないピースだと言える。
三度諦めたプロへの道
「プロを諦めた瞬間が3回あったけど、それが何とか転がって、今がある。投げさせてもらえるだけで感謝しかない」
野球界でいうエリート街道を歩んできたわけではない。益田は文武両道でプロへの道を拓いてきた。
福岡県内で進学校として知られる嘉穂高で145kmを計測し、プロから注目されるようになった。同校のグラウンドにスカウトが訪れる光景に学校関係者は色めき、調整というよりも品評会のようなブルペン投球となって、夏の大会を前に体が悲鳴をあげた。同校から初のプロ入りは幻となった。
東京六大学や東都リーグ所属の大学からも推薦をもらったが、「地元の公務員として働けばいい」と北九州市立大へ進んだ。4年後もプロからの指名はなし。就職に向けて勉強を始めていたときに、たまたま枠が残っていた東京ガスから誘いを受けた。
2022年ドラフト会議で指名されなければ、野球を辞めるつもりだった。周囲からは「1位指名あるぞ」と言われていただけに、1位指名が終わり2位指名でも名前が読み上げられず、会見のために締めたネクタイを緩めていたところ、広島から3位指名を受けた。
諦めるという選択肢もあった分岐点を経て、今がある。すべてが好転しているように感じられるのは、自身の選択を信じて突き進んできた結果だ。腕を下げるという投手人生で最も大きな選択が正しかったことを、今季の益田は証明できるだろうか。