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「右腕を下げてみないか」カープの2年目右腕・益田武尚が、黒田博樹の言葉に投手人生最大の決断を下して得た開幕一軍の可能性
posted2024/03/11 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
NIKKAN SPORTS
人生の中で岐路に立つことは何度あるだろうか。広島2年目の益田武尚は1年目のシーズンを終えたばかりの昨秋、プロ野球人生で大きな運命の分かれ道に立った。
「右腕を下げてみないか」
1年目のシーズンを駆け抜けて臨んだ秋季キャンプ、黒田博樹球団アドバイザーからフォームの変更を提案された。迷いがなかったわけではない。野球をはじめた小学4年から、ずっと右腕を上から振り下ろしてきた。その投げ方で高校、大学、社会人と結果を残し、プロの扉をこじ開けた。だからこそ抵抗感があった。
だが、この世界で生き抜いていくために、何かを変えなければいけない必要性をどこかで感じていた。夏場に初昇格を果たした1年目は8試合に登板。初登板から7試合連続無失点、150km超の力強い直球などは可能性を感じさせたが、本人は危機感を強くしていた。
「数字で言ったら“0点”だと思います。1年間、一軍で戦い抜けなかったですし、CS(メンバー)に残れなかった。技術が足りないのか、経験が浅いからなのか、まだまだ信頼が薄い。来年も同じことをしていたら、再来年には終わりだなと思っている」
シーズン終了後に語っていた自分自身へのふがいなさや悔恨の念が、フォーム変更を決断させた。
覚悟の先に見えた景色
着手したばかりの秋季キャンプ中は戸惑いも違和感もあった。リリース時に感じる指のかかり具合に強さを感じられず、変化球の軌道も変わった。プレートを踏む位置を極端に一塁側に変えたことで景色が大きく変わり、打者に対して描くラインも変わった。
「ちょっとモヤモヤする気持ちもあるけど、これで自分のポジションをつくってしまえばいい。オフシーズンいろいろ考えながらやって、ポジションをつかみ取れれば」
腹をくくって覚悟を決めた。益田にオフはなかった。秋季キャンプ打ち上げ後、12月も、1月も新フォームで投げ続けた。常に投げてきたことで、迎えた春季キャンプ初日からブルペンで150kmを計測。フォーム変更によって目立つ存在感が、仕上がりの良さを際立たせた。
腕を下げたことによって、益田という投手の個性が色濃くなった。昨季一軍打者を押し込んだ直球の速度も回転数も維持したまま、フォークがスライダーのように曲がりながら落ちるように変わった。シンカーのように変化しながら落ちるフォークを投げる右投手はいるが、広島に同じような軌道を描くフォークを投げられる投手はいない。腕を下げたことで心配された左打者との対戦でも大きな武器となる。