オリンピックPRESSBACK NUMBER
東京マラソン「日本記録達成ならず」も…“五輪にこだわらない”新谷仁美の型破りな挑戦が愛されるワケ「一番、声援が多いと感じるぐらいでした」
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byNanae Suzuki
posted2024/03/06 11:03
あえて五輪選考の対象ではない東京で日本記録の更新を狙った新谷仁美だったが、高速コースの東京で2時間21分50秒の6位にとどまった
今回の東京マラソンは、元世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ、女子マラソン世界歴代2位の記録を持ち、トラック競技のメダリストでもあるシファン・ハッサン、そしてパリ五輪代表を懸けた日本男子勢と見どころが多く、世界160の国と地域でも放送が決定するなど、世界的にも注目を集めたレースだった。
それゆえ、新谷の挑戦はあまりテレビに映らないだろうと立ち上がったのが、100人の有志が沿道から新谷の姿をスマホで撮影して、その走りを繋ぐという「東京100人100カメプロジェクト」だった。当日は100人のファンが、新谷の姿を残すべく42.195kmを移動した。
ただ、そのプロジェクトの100人を差し引いても、沿道の注目は新谷だった。
沿道からの「新谷ー!」という声援
東京マラソン規模の大会ともなれば、沿道の観客は陸上に詳しい人ばかりではない。実際、「どれがキプチョゲ?」「ハッサン!……じゃなかった!」という声を聞くことも多く、名前を呼んで声援を送るのは、応援旗や応援ウチワを持つ陸上ファンや関係者が多かった。
そんななか唯一、異彩を放っていたのが新谷だった。
沿道に立っていると「新谷ー!」「新谷ー!」という声援が徐々に近づいてきて、姿は見えずとも間近に迫ってきていることが感じられる。
キプチョゲもハッサンも分からなくても、新谷の顔と名前が合致して知っている人がこんなにもいるのかと驚いた。観客全員が最前列というぐらい応援が少ないエリアであったにも関わらず、途切れなかった声援。大観衆が詰めかけた銀座や浅草では、すごい声援が迎えたであろう。ゴール付近の丸の内では「新谷! ありがとう!」という声まで送られた。
「一番応援が多いんじゃないかと感じるぐらいでした。最後は私自身、もう日本記録はダメだろうなと思っていたのですが、それでも応援してくれる言葉がすごく力になりました」