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MVP久保建英は喜ばず古巣サポに謝った「愛情と敬意を感じてます」…現地カメラマンが捉えた「ゴール以上に特筆したい」“その後の光景”
text by
中島大介Daisuke Nakashima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2024/02/22 17:00
古巣マジョルカ戦で同点ゴールを挙げた久保建英。それ以外にも好感触なプレーが多かったことを象徴する1枚だ
この屈強なFWとソシエダ守備陣の攻防がこの試合のターニングポイントになっただろうか。身体を張ったムリキが押し倒された(ように見える)場面でも、主審はホイッスルを吹くことはなかった。ファールの基準を間違えた主審は、両チームに対してファールを流す傾向に。度を越えたコンタクトが許されると、徐々に試合自体が荒れてしまった。
軽やかなゴール後、古巣サポに見せた“敬意”
そんな中で迎えた38分、ムリキが収めたかに見えたボールをソシエダCBイゴール・スベルディアと中盤のミケル・メリノが挟み込んで奪い切ると、敵陣に残る久保へパスを送る。そこから20メートル以上を独走した久保は、対面した相手CBマティヤ・ナスタシッチからわずかに左手にズレると、かわしきることなく左足を一閃、低い弾道がGKの手を弾いてゴールネットを揺らした。
その久保は――両手を上げ、また手を合わせて謝るような姿勢をとった。連続写真に映る表情には一切喜ぶ素振りはなく、レンズ越しでは、一瞬ゴールが決まったことに気づかなかったほど。
試合後のインタビューでは「スペインへ来て以降、ここは最良の場所。ブーイングも多少あるけど、愛情と敬意を感じています」と答えており、古巣サポーターへの久保からの愛情のお返しとなるパフォーマンスだった。
この得点の起点となったプレーでも、ムリキが倒される形になったものの、プレーは続行された。
現地での撮影中には、判定の一つ一つが正しかったか否かを知ることはできない。ただそれが、ホームチームのサポーターには大きなストレスになっていたのは間違いなく、大きなブーイングがスタジアムを包んだ。その空気に飲まれるように、選手同士も憎しみをぶつけ合っているように見える瞬間もあった。この展開にはインタビューに応じた久保も、判定について問われる一幕があったほどだ。
前半終了間際、プレー外でのソシエダFWウマル・サディクとのやり合いでマジョルカDFキャプテンでもあるアントニオ・ライージョが警告を受け、それに対して抗議のようなポーズを取ると、即座に2度目の警告で退場となってしまった。
劇的勝利と久保が語った「ラ・レアルでタイトルを」
マジョルカは、嫌な流れを断ち切るために円陣を組んで後半に臨んだ。
対するソシエダは数的優位を生かし、久保が右サイドから、そして後半序盤に交代出場となったアンデル・バレネチェアが左サイドからと、攻撃の色を強めた。しかし、赤い牙城を崩すことができずに時間だけが過ぎていった。
それでもアディショナルタイムに突入した93分、ジョン・パチェコのクロスへ飛び込んだメリノが頭で合わせて逆転に成功。ソシエダは、劇的な勝利で5試合ぶりとなる勝ち星を手に入れた。
久保によるゴールは、この試合を振り出しに戻す同点弾だっただけではなく、5試合連続無得点とソシエダが陥っていた悪い流れを断ち切るゴールでもあった。