“ナンバー2”だった後藤の立ち位置

　松永によると、後藤に対して大仁田も手を焼いていたという。

「当時、元W★INGの選手たちはみんな『打倒・大仁田厚』ということで結束していたんですけど、大仁田さんにたどり着く前に、ナンバー2である後藤さんが全部その流れをつぶしちゃうんです。そうなると大仁田さんがいる意味がないじゃないですか。

　後藤さんは現場を仕切っていたんで、そういうところがあったんですよね。リングを降りれば先輩・後輩の礼儀があって当然だと思いますけど、後藤さんの場合はそれをリングに持ち込んじゃったりしていた。そうなると、もう後藤さんには誰も逆らえなくなるんですよね。だから大仁田さんは引退前、『このまま自分がいなくなったあと、後藤体制になったらマズい』と思ったんじゃないですかね。

　だから私に対しても『ちょっと待ってくれよ。後藤を辞めさせるから』と言っていたし。それで後藤さんは自分が排除されそうな流れを感じて、自分からFMWを辞めちゃったんだと思いますよ」

1994年横浜大会での超電戦⼠バトレンジャーZ戦　©AFLO

付き人だった黒田哲広の回想「予兆は全くなかった」

　続いて紹介するのは、FMWの末期にエースのハヤブサと二枚看板で活躍した黒田哲広だ。黒田は大仁田の引退前、FMWの若手としてターザン後藤の付き人をしていた、後藤に極めて近い立場にいたレスラーだった。

「今でも憶えてますけど、後藤さんたちが離脱する前日、新潟で試合があって、控室では後藤さんと若い選手で『UFOってホントにいるのか？』っていう話をしてたんですよ（笑）。オカルト好きの後藤さんを中心に、そんな取り止めもない話をしていたくらいなんで、離脱の予兆みたいなものはまったくなかったんです。

　それから試合をして、次の日が後楽園なのでハネて（新潟には泊まらず）東京に帰ったんですね。それで翌朝早く、当時合宿所で同部屋だったノブ（のちのドラゴン・キッド）に『黒田さん、起きてください。後藤さんから電話です』って言われて電話に出たら、『黒田、いまからロイヤルホストに来てくれ』って言われて行ったんです。そしたら後藤さん、本田さん（ミスター雁之助）、（フライングキッド）市原さんがいて、すごく神妙な顔をしてるんですよ。『えっ、なにこれ？』と思ったら、後藤さんが『まあ、座れ。いまから新山（勝利）も来るんだけど、FMWを辞めようかと思ってるんだ』って話になって、『えっ、前日のUFOの話から急にこれか!?』と思って（笑）。

　それで新山さんが来たあと、後藤さんが当時FMWで使ってた馬込のホテルの会議室で話し合いをやると言うので、ぼくが運転して行ったんですよ。それで着いたら、後藤さんに『黒田、眠たいか？』って言われて、新潟から移動でほとんど寝てなかったんで『はい、眠たいです』って答えたら、『わかった。じゃあ、車で待ってろ』って言われて、後藤さん、本田さん、市原さん、新山さんで会議室に行って、ぼくだけ車に残ったんです」

　その馬込のホテルで後藤、雁之助、市原、新山でFMW離脱に関する話し合いが行われたと思われる。

「それで数時間後に後藤さんたちが戻ってきて、『俺たちは辞めるから』って言われて。ぼくが答えに困っていたら、後藤さんが『こっちに付いてきても大変だから』って言ってくれたんで、ぼくと新山さんはFMWに残ったんですよ。だから新潟の試合後、後藤さんが誰かから何かを聞いて、離脱を決意したんだと思いますね。少なくとも新潟の試合前までは、UFOや宇宙人の話に夢中だったんですから（笑）」

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