濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「スターダムをクビになって…」人気女子プロレスラーが初告白 ウナギ・サヤカ“超満員の自主興行”に密着して感じた「不思議な風格」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/02/09 17:00
後楽園ホールでの自主興行『殿はご乱心~1番金星~』を成功させ、新たなベルトも奪取したウナギ・サヤカ
そういう現場を作る側としては、目が回るほどの忙しさ。足りない部分は仲間が自主的に補ってくれてもいた。インタビュースペースはプロレス専門チャンネルのスタッフがセッティング。ウナギと対戦経験のあるレスラー・まなせゆうなは観戦に訪れたはずの会場でグッズ売店の案内をしていた。
第4試合、ウナギにしか見えないがウナギは別人だと言い張る覆面レスラーのダーク・ウナギがリングへ。ダーク・タイガー、ダーク・ウルフとのトリオだ。対戦相手は諏訪魔、尾崎魔弓、雪妃魔矢。入場曲が流れ始めてからしばらく経ってダーク・ウナギが入場する。舞台裏を知っている人間にはハラハラする場面だった。
それでも試合自体は熱戦だった。尾崎の凶器攻撃を受けまくり、最後は諏訪魔にスリーパーホールドを決められた。その中で、やはりウナギは(サヤカではなくダークだけれど)強大な敵に立ち向かう姿がよく似合うなと思わされた。
メインイベントは「男子vs女子」のタッグマッチ
それはメインも同じだ。ウナギはほとんど頭が回らない状態だったようだ。作戦も何もなく、とにかく全力でぶつかっていくだけ。うまくやろうとか自分をよく見せようとか、そんな余裕がないところで“らしさ”が際立った。
鈴木と田中はそれを懐深く受け止め、その上で痛めつける。ウナギがセオリーも何もなくメチャクチャに暴れてくる可能性もあったが、今さら慌てる2人ではなかった。“女寝技師”と呼ばれる小波も真っ向勝負。地元の福山で格闘技ジムに通い、女子MMAのパイオニアである藤井惠の指導を受ける彼女は鈴木に対してローキック、両足タックルを放つ。
小波のローをごく自然にカット(ブロック)する鈴木にも凄味を感じた。相手が女子でも雑なところがまったくない。田中は必殺技スライディングDを小波にヒット。チームを分断すると、鈴木がウナギをゴッチ式パイルドライバーで仕留めた。
結果は負け。しかしウナギは限界を超える頑張りを見せた。エンディングでは大仁田厚が彼女を讃えて花束を渡す。さらにいつでも、どこでも、誰でも(無機物でも)レフェリーが3カウント数えれば王座が移動するアイアンマンヘビーメタル級のベルトまで獲得してしまう。
舞台裏の闘いで倒れた相手の上に置かれたステファン(ウナギ愛用のぬいぐるみ)がタイトル奪取。そのステファンをリングに上げてウナギがフォールした。
昨年秋にアメリカの女子団体KITSUNEの初代王者となり、自主興行の前日にはJTOガールズ王座を獲得。そしてアイアンマンを加えて3冠王である。この結末は読めなかった。第1試合からメイン後まで、中身がギュウギュウに詰まった大会だった。